政権交代するイスラエルは何処へ?

イスラエルで政権交代が起きました。いや、政権交代というより通算15年、連続12年首相を務めたネタニヤフ氏に対してNOを突き付けるだけのための画策が度重なる挑戦の末、今回ようやくそれが実現しました。しかし、8党連立の与党は投票の結果、賛成60票、反対59票、棄権1票という薄氷の膜すらなさそうな政権交代であります。

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この話で思い出したのが細川政権です。1993年、それまでの自民党55年体制がずっと続いていた中、自民政権への不満は鬱積していました。官民癒着や政治腐敗などあり、またバブルが崩壊して国民は強い不信感を持っていたところでそれまでの野党8党が連立を組み、生まれたのが細川内閣でした。しかし、ご記憶にあるとおり、同政権は8カ月強で倒れます。小沢一郎は当時「素人が政権を取ったのだからしょうがない」とコメントしています。そのあとを継いだ羽田政権はわずか64日で倒れます。その後は社会党と連立を組んだ自民党がしっかり復活したのが歴史でした。

政権交代の難しさは閣僚を含めた人材と官僚との方向転換や相互理解なのかもしれません。我が国の民主党政権時代もそれが露呈していました。アメリカのように頻繁にどちらかに代わる国家ですと共和も民主も一定の基盤を持ち合わせており、実力ある人材も豊富なのですが、長い政権が続いた後の政権交代は基本的にまず安定しないと断言してよいかと思います。

同様な例は2010年頃から始まったアラブの春でアラブ諸国は長期独裁政権が次々と倒され、国民は歓喜の渦に包まれていましたが、新政権に於いてはどの国も極めて困難なかじ取りとなり、落ち着くまでに数年を要しています。

今回のイスラエルの与党8党がこれまた見事にバラバラで右派(極右)から左派、更にアラブ系の党まで混ぜ込んだ「ごった煮」状態。とりあえず、極右ヤミナ党のベネット氏が首相になり、2年後に中道政党のイェシュアティド党の党首、ラピド氏に首相を交代するというシナリオになっています。2年後の首相交代まで約束している連立与党というのも珍しいケースだと思います。

ネタニヤフ氏はパワフルでカリスマ性がありました。あまり知られていませんが、国内経済振興に力を注ぎ、この12年間でGDPは1.4倍になり、一人当たりGDPは日本と同格になっている(日経)と報じられています。確かにワクチン外交でも世界でトップを走っていましたし、優秀な企業の成長を後押しし、ナスダックには80社近くがイスラエル企業として上場しているのです。

また、「ネタニヤフ氏のイスラエル」が中東の微妙な力関係をバランスさせていたところもあります。イランとの敵対関係もアメリカのポジションがはっきりしない中、明白さがあったと思います。パレスチナとの和平が進まなかったともされますが、中東のテロ化はそんな表層的な話ではないはずです。原理主義が跋扈し、実力行使が正当化されつつあった点で中東社会がどう変化するか、ここが注目点となります。

特に今回首相となるベネット氏はそもそも弱小右派で成立そのものが19年7月でその後、別の党と連立を組んで再生させたのが20年1月です。ネタニヤフ氏率いるリクード党と連立関係にあり、首相になるベネット氏も大臣を歴任しています。それ故、ネタニヤフ氏からすれば飼い犬に噛まれたようなもので「ふざけるな」という気持ちでありましょう。

連立政権が2年後まで続いているか、それすら私には確信が持てないし、ネタニヤフ氏は再登板を虎視眈々と狙っているので当面はイスラエル政治は混迷を深めるだろうというのが私の予測です。その場合、アメリカの中東政策の踏み込みが難しくなる公算があり、グリップが効かなくなった場合、アメリカがイランなどに融和するのか、そうすればサウジとの関係をどうするのかなど、極めて神経質なかじ取りが求められることになるでしょう。

日本からはあまり縁がない国ですが、イスラエルは常に世界のへそのようなものですので小さな国なのに世界の政治経済社会に極めて重要な位置づけである中で西側諸国、中東諸国、そしてイランがどのような動きを見せるのか、要注目だといえそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月15日の記事より転載させていただきました。