菅内閣不信任案を提出した理由は積極財政への消極姿勢

本日、国民民主党は菅内閣不信任決議案を提出しました。我が党は、政治空白よりも政策空白が国民にとってマイナスになると考えるときには躊躇なく提出すべきと、他党に先駆け主張してきました。

討論では、今の国会を延長して病床確保や水際対策の強化のために急ぎ必要な法改正に取り組むことを訴えるとともに、菅内閣を信任できない最大の理由として、経済政策の問題点を指摘し、以下のとおり、積極財政への転換を訴えました。

「私たち国民民主党は、昨年から、現役世代への10万円の追加現金給付や期間を限定した5%への消費税減税を含む経済対策を提案し続けてきました。あわせて、中期国家戦略として、デジタル、環境、老朽インフラへの投資や、教育の無償化をはじめとした人への投資の拡充を訴えています。短期的な財政均衡に囚われて「未来への過少投資」に陥ることは、我が国の国力そのものを弱体化させます。少子化という我が国が直面する最大の問題に対処するためにも、経済政策を「大規模、長期、計画的な」積極財政に今こそ転換すべきです。」

内閣不信任案は反対多数で否決されましたが、コロナで傷ついた国民生活と経済を立て直すためには経済政策の転換が不可欠です。しかし、2025年のプライマリーバランスの黒字化にこだわる菅政権では、到底実現はできないでしょう。

全文は以下の通りです。我が党が、なぜ内閣不信任案に賛成したのか、その理由をまとめているのでぜひ、ご一読いただければ幸いです。

※動画は衆議院インターネット審議中継からご覧になれます。(2:49:14頃から)

菅内閣不信任決議案 賛成討論

令和3年6月15日

玉木雄一郎(国民民主党・無所属クラブ)

国民民主党代表の玉木雄一郎です。

私は、国民民主党・無所属クラブを代表し、菅内閣不信任決議案に賛成の立場で討論いたします。

冒頭、新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方々に心からお悔やみ申し上げます。特に、自宅待機中や入院調整中に、病床が足りず必要な医療を受けることができないまま亡くなられた方々に対し、国会に身を置くものとして、お悔やみと同時に、お詫びを申し上げなくてはなりません。

菅内閣不信任の理由は3つあります。

不信任の第1の理由は、病床確保の法改正が必要であるにもかかわらず、国会を閉じて問題を先送りしようとしていることです。

日本の人口1,000人あたりの病床数は13床とOECDで最多ですが、1病院あたりの医師数は、米国やドイツに比べて3分の1以下です。米国や英国では医師1人がほぼ1病床を診るのに対し、日本は医師1人で5つの病床を受け持つなど、医療従事者や医療機器が分散し、先進国では異例の「低密度」となっています。これは、施設あたりの医療従事者の人数を増やす改革を怠ってきた自民党政治のツケが回ってきたとも言えます。

ただ、平時に分散していたとしても、国や知事による病院間の機能に応じた役割分担と総合調整がうまく行けば対応できたはずです。しかし、コロナ治療後も転院先が見つからずに新たな重症患者を受け入れられない結果、自宅療養中や高齢者施設での待機中に多くの尊い命が失われたことは、現行制度の問題点を私たち政治家に厳しく突きつけています。

総理自身も、4月23日の記者会見で、緊急事態には、民間病院に対しても、国や知事が患者受け入れの指示や命令を出せるよう「法律を改正しなければならないと痛切に感じている」と明言されました。であれば、なぜ法改正をせず国会を閉じるのですか。このまま国会を閉じることは政治の不作為であり、無責任です。国会を延長し、病床を確保する法改正をしようではありませんか。

不信任の第2の理由は、水際対策の法改正が必要であるにもかかわらず、国会を閉じて問題を先送りしようとしていることです。

国民民主党は昨年来、入国者の14日間施設隔離や、位置情報を国が常時確認できるスマホアプリのインストール義務付けを提案してきましたが、ゆるい水際対策は変わらないままです。その結果、英国やインド由来の変異株の国内侵入を許してしまいました。さらに、五輪関係の入国者には14日間待機も免除。ワクチン接種を義務づけもせず、国際的に約束した「安全・安心な」五輪は可能なのですか。こうした制度の不備を放置したまま国会を閉じ、五輪を開催しようとするのは、政治の不作為であり無責任です。国会を延長し、水際対策を強化する検疫法や出入国管理法などを改正をしようではありませんか。

不信任の第3の理由、そして、菅内閣を信任できない最大の理由は、積極財政を否定する経済政策です。

ワクチン接種が進む中、世界経済は急回復の兆しを見せていますが、日本だけが取り残されています。先月OECDが発表した今年の経済成長率の予想では、日本はG7の中だけでなくG20の中でも最下位、OECD38カ国の中でも下から2番目です。相対的に感染者数や死亡者数が少ないのに、この回復の鈍さは、ワクチン接種の遅さだけでなく、経済政策の方向が間違っているからに他なりません。

菅総理、そして議場の同僚議員に私は訴えたい。今、世界の財政政策の潮流が大きく変わりつつあります。1980年代以降の小さな政府、構造改革路線から転換し、「大規模、長期、計画的」な積極財政策が採用されつつあります。特に、米国バイデン政権では、イエレン財務長官が主導して、GDPの約3割にあたる総額6兆ドルの積極財政政策を発表しました。戦後最大の水準です。何もワクチンだけで高い経済成長を実現しているわけではないのです。

イエレン長官はFRB議長時代の2016年に、経済ショックで需要が低迷した状態が続くことが、供給側にも恒常的な悪影響を与え、長期的な経済低迷につながる「負の履歴効果」を提唱し、それを払拭するためには、総供給を大幅に上回る総需要を作り出し、高い潜在成長率と賃金上昇を実現する、いわゆる「高圧経済」、ハイプレッシャー・エコノミーが必要と主張してきました。その言葉どおり、米国ではワクチン接種率が20%弱だった今年3月上旬のタイミングで、1,400ドルの追加現金給付を含む約2兆ドルの「米国救済プラン」法案を成立させました。今から3ヶ月前のことです。

日本の現時点(6月13日)のワクチン接種率は約14%、アメリカの4ヶ月前と同じです。日本でもワクチン接種が進み始めた今こそ、積極財政策によって、コロナで傷ついた経済の回復を確実なものにしなければなりません。にもかかわらず、骨太方針では「2025年のプライマリーバランスの堅持」、すなわち緊縮財政が掲げられており、世界の経済政策の潮流とは全く逆です。少し景気が良くなればすぐ経済対策の手を緩めてしまい、また経済低迷に逆戻りするという、これまでと同じ失敗を繰り返そうとしている菅内閣を、私たちは信任することはできません。

私は先の党首討論で、国会を延長し、速やかに30兆円規模の補正予算編成を提案しましたが、菅総理は、昨年度の補正予算などの繰越しが約30兆円あるので必要ないと答えました。しかし、これは基本的認識が間違っています。30兆円もの予算が余っているとすれば、本来支援すべきところに必要なお金が回っていない証拠です。速やかに執行すべきであって、国会で総理が胸を張って言うべきことではありません。

例えば、昨年3月に決めた低所得のふたり親世帯への特別給付金は、3ヶ月経った今日、まだ1円も払われていません。総理、あまりに遅すぎませんか。また、月20万円を最大9ヶ月分無担保無利子で貸し付ける総合支援資金について、あと3ヶ月分延長して欲しいという声が多いのに、菅内閣はこれを拒否しています。しかし、総合支援資金の予算は6月5日時点で4,500億円も余っており、3ヶ月分の再貸付けに必要な1,400億円は十分賄えるのです。加えて、緊急事態宣言を出しておきながら、飲食店に対する協力金がいまだに支払われていない地域もあります。総理、倒産してから、お金がきても遅いのです。

バッハ会長をはじめ、国際オリンピック委員会、IOC幹部の特別待遇に大金を払う前に、これまで苦しい中、自粛に協力してくれた個人や事業者にこそ速やかにお金を払おうではありませんか。30兆もの予算が余っていることを理由に、必要な補正予算の編成を拒否するのは、やるべき宿題をしていないことを理由に、次の宿題ができませんと言い訳しているようなものです。国会を延長し、大規模な補正予算を編成することを強く求めます。

私たち国民民主党は、昨年から、現役世代への10万円の追加現金給付や期間を限定した5%への消費税減税を含む経済対策を提案し続けています。あわせて、中期国家戦略として、デジタル、環境、老朽インフラへの投資や、教育の無償化をはじめとした人への投資の拡充を訴えています。短期的な財政均衡に囚われて「未来への過少投資」に陥ることは、我が国の国力そのものを弱体化させます。少子化という我が国が直面する最大の問題に対処するためにも、経済政策を「大規模、長期、計画的な」積極財政に今こそ転換すべきです。また、格差是正の観点から、国際的な最低法人税率の導入や、富裕層への課税強化、とりわけ金融所得課税の強化も必要です。

とにかく、世界の経済政策の新潮流に乗り遅れる菅内閣では、国民生活の安定と国際競争力の向上を実現することはできません。間違った経済政策を転換するためには、菅内閣を変えるしかありません。今は積極財政で国民の安心を取り戻すことが最優先です。「安心なくして成長なし」この信念を申し上げ、私の賛成討論といたします。


編集部より:この記事は、国民民主党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2021年6月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。