スペインの麻薬市場は衰えることを知らない

スペインで深刻な社会問題となっているのが麻薬の普及だ。

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スペインはラテンアメリカとの関係は歴史的にも深く、南米コロナビアなどからコカインの密輸入が盛んになっている。また地中海を挟んだ対岸のモロッコからはハシシ(大麻樹脂)が持ち込まれている。

2019年の統計では150万株のカンナビス、コカイン38トン、ハシシ350トン、ヘロイン230キロ、マリファナ(乾燥大麻)33トンが治安当局によって没収されたとある。また、それに伴って2万437人が逮捕された。(スペイン紙「エル・パイス」(2020年10月23日付)参照)。

スペインへの密輸入においてハシシがトップでコカインが2番目に位置しているが、マリファナが年々増加していると国家警察と治安警察が指摘している。大麻を栽培してマリファナを生産していくのがスペインでは静かなブームとなっているという。

また、スペインの対テロ・組織犯罪中央情報局(CITCO)によると、スペインにある17の自治州のうち13州でマリファナを作るために大麻が栽培されているという。マリファナの需要が伸びているのは東欧の犯罪組織がその需要を生んだとしている。

スペインでの麻薬組織はガリシア地方がスタートであった。その後、この地方は次第に後退していたのがまた復活しているということである。2019年に3000キロのコカインを積んだ潜水艇でラテンアメリカから大西洋を横断し、ガリシア地方に持ち込もうとしていたのが摘発された事件がそれを物語っている。

対テロ・組織犯罪中央情報局によると、アンダルシア地方のコスタ・デル・ソルに面した都市マラガが麻薬組織のロジスティック面での中心的な存在になっているという。カディス県にあるアルヘシラス港や少し内陸に入ったセビーリャ港などに南米から密輸入された麻薬はマラガに集荷されるということだ。

また、モロッコからジブラルタル海峡の沿岸地帯に大型のゴムボードで周囲が暗闇の中で、ハシシが陸揚げされて持ち込まれている。日中だと治安警察の警備艇の追跡をかわすために、積んでいたハシシを海中に捨てて逃走するといったケースもテレビで放映されることもある

この現象が良く起きているのが英国領ジブラルタルを前にした人口6万人の都市ラ・リネア・デ・ラ・コンセプシオンである。この都市では失業率が30%ということで収入を得るために麻薬の持ち込みを手伝っている者が多くいる。

警察が近づいているのを麻薬組織に知らせるだけで1000ユーロ(12万円)の稼ぎになるという。束になった麻薬を積み下ろす作業だと3000ユーロ(36万円)、高速ゴムボードを運転する仕事だと3万ユーロ(360万円)になるそうだ。警察に捕まれば刑務所行きとなる。それでも収入を得るためにそのような危険を冒すことを厭わない住民もいるのだ。

ガリシア地方のポンテベドゥラ港とアンダルシア地方のアルヘシラス港が、麻薬が持ち込まれる港として注目されている。更に、地中海沿岸ではバルセロナ港、ムルシア港、バレンシア港、それにアンダルシアのアルメリア港に麻薬が持ち込まれる。とくに、アルヘシラス、バレンシア、バルセロナの3大港は外国から入って来る荷物の積載量も多く、コンテナの中に商品に交じって麻薬が積まれているケースが多々ある。

コンテナに積まれた商品の輸入業者が知る由もなく、その中に麻薬が積まれる場合もある。港でコンテナを開けて麻薬を引き抜くのである。その為に港湾労働、治安警察官それに税関職員らが共謀して麻薬組織に協力するのである。その協力に対して麻薬の3割は彼らに分配されるということになっているそうだ。中でも治安警察官がその半分をもらうということになっているらしい。

これではこれからも麻薬市場は衰えることがないであろう。