EU委員長の「欧州の恥」発言に失望

欧州連合(EU)欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の今回の発言には失望した。ハンガリーのオルバン首相が指摘していたように、ブタペストの国民議会が可決した性的少数派(LGBTQI)に関連する法改正を慎重に考えず、“ハンガリー悪し”の掛け声に乗って批判しているだけではないか、といった疑いも湧いてくる。

レインボーカラーで照明するオリンピックタワー、フィリップ・ハルトマン氏撮影(2021年6月23日、独ミュンヘン市、ミュンヘン市公式サイドから)

東欧ハンガリーの国民議会(国会)は今月15日、未成年者に対して、同性愛を助長し、挑発する情報宣伝活動を禁止する法改正を賛成多数で可決した。予想されたことだが、性的少数派やその支持者は、「性少数派の権利を蹂躙し、表現の自由を抹殺、ひいては未成年者の権利を制限する」として抗議デモを行っている。批判の声は国内だけではなく、欧州全土に広がってきた。

フォン・デア・ライエン欧州委員長は23日、ハンガリー議会の今回の法改正に対して、「人間をその性的指向に基づいて差別するもので、EUの基本的価値観に反する」と指摘し、「ハンガリーの法改正は欧州の恥だ」と批判、法問題を担当するEU委員にハンガリー政府にEU側の懸念を伝える書簡を送るように要請した」と述べている。それに対し、ハンガリー政府は同日、「法改正の詳細な内容への独立した調査も実施せず、一方的に批判することこそ恥だ」と反論している。ハンガリー与党関係者からは、「西欧のデカダンス文化(退廃)への挑戦だ」といった勇ましい声も聞かれる。

政治は時として、主権者(国民)の意向に反した決定を下さなければならない。国民の顔色、風向きだけを見て、次期選挙のために国民が嫌う政策を実行できない政府はその存在価値を失う。何らかの決定を下さなければならない時、国民に理由を説明して、理解を求める。その後、議会を通じて政策を決定する。民主政治は通常、そのようなプロセスで進められる。オルバン政権がそのプロセスを経て今回の法的改正に踏み切ったとすれば、それはハンガリー国民が決めたことだから、外から、ああだ、こうだと批判はできない。

オルバン政権は性的少数派に対して厳しい姿勢であることは良く知られている。ポーランドやスロバキアなどでも同様だ。オルバン政権が今回、法改正を通じて未成年者への同性愛を挑発する書物の発行や映画の上演時間制限、宣伝活動の停止などを決めた。オルバン政権は批判を恐れず、性的少数派の問題に対して、はっきりと反対を表明した点は評価できる。ただし、今回のように検閲を強化し、情報宣伝活動を規制した法改正を施行しても、実際の効果は期待できない面もある。

ところで、フォン・デア・ライエン欧州委員長がいうように、ハンガリー議会の法改正は「欧州の恥」だろうか。未成年者に性的少数派関連の情報、宣伝活動を規制することは現時点では必要なことではないか。医師出身で7人の子供の母親フォン・デア・ライエン委員長は自身の子供たちに未成年の時から性的少数派関連の情報や書籍、映画などを見せたいのだろうか。

多分、同委員長は、「子供たちに性的少数派関連の情報を未成年時代に与えたいとは思わないが、同性愛者の権利は尊重されなければならない。だから、ハンガリー政府の決定を支持できないのだ」と説明するかもしれない。しかしこれは「未成年者への性的少数派関連情報・宣伝の制限」と「性的少数派の権利擁護」という2つの問題を混合している。後者は重要だが、前者の「未成年者の保護」という国民が願っている「多数派の権利」を無視して後者を優先にする政治はやはり間違っている。

ハンガリーの性的少数派の情報宣伝活動を制限するのは「表現の自由」の制限であり、欧州の共通の価値観でもある寛容と連帯、多様性の精神にも反するというが、それは大人への論理だ。未成年者に対してそのような論理は通用しない。オルバン政権は、「法改正はあくまでも未成年者の保護を目的としたものだ」と説明しているが、その主張は反対者の批判の前に打ち消されている。

EUの首脳会談に参加したルクセンブルクのグザヴィエ・ベッテル首相は自身が同性愛者であり、同性婚者だ。同首相は「同性愛は通常のことだ」と強調する。EUの14カ国はハンガリーの性的少数派政策を糾弾し、ハンガリー政府が再考しない場合、欧州司法裁判所(EUGH)に提訴する姿勢を強調している。性的少数派を擁護するという名目だけが独り歩きし、性的大多数派の意向を無視している。民主主義は多数派の意見を重視する政治システムだ。性的少数派は性的多数派の決定、意向に耳を傾けなければならない。

ドイツ南部ミュンヘンのサッカー競技場関係者は23日、サッカー欧州選手権のグループ戦、ドイツ対ハンガリー戦が行われる競技場を性的少数派運動のシンボル,レインボーカラーの照明で包もうとした時、欧州サッカー連盟(UEFA)が「政治的、宗教的行為は禁止されている」と指摘し、ミュンヘン市と競技場関係者に警告するという出来事が起きている。ちなみに、オルバン首相は同試合を応援するためにミュンヘンに行く予定だったが、土壇場になってキャンセルしている。

欧州サッカー連盟から性的少数派のシンボルの照明が禁止されたが、独サッカー連盟(DFB)は当日、性的少数派のレインボーカラーの旗を観客に入場の際に手渡している。他の競技場ではレインボーカラーの照明が行われた。参考までに、ドイツのサッカー代表GKマヌエル・ノイアー選手はレインボーカラーの腕章を付けてプレイしたが、UEFAから今のところ処罰を受けていない。

当方は、寛容、連帯、多様性という名目を挙げて性的少数派の権利を擁護する政治家より、性的少数派の生き方にはっきりと反対する政治家を信頼する。性的少数派の問題は人間のあり方が問われているのであって、慈善活動や支援運動ではないからだ。性的少数者にとっても深刻な問題なのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。