本当なのか?資源のスーパーサイクル

資源のスーパーサイクルという言葉を耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。スーパーサイクルとは景気やモノの価格変動でも数年単位の大きな波動を指します。経済ではいわゆる景気循環の話がありますが、これには資源価格も当てはまります。そして最近、一部の専門家が資源価格はスーパーサイクルに入っているとし、原油価格はバレル当たり100ドルを突破するという予想も以前に比べてかなり信ぴょう性をもって語られるようになりました。

さて、我々は今、スーパーサイクルに突入しようとしているのでしょうか?

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資源のスーパーサイクルについては少し前にカナダ中央銀行の分析グループが詳細な研究をしています。これによると1899年以降4度、スーパーサイクルが生じており、それぞれ30年前後のサイクルとなっています。

1度目は1899年から1932年でピークを1904年に付けています。2度目が33年から61年でピークが47年。3度目が62年から95年でピークが78年。4度目が96年から現在に至りピークは2011年となっています。ピーク時期に着目すると1904年は日露戦争と第2次産業革命、47年は大戦後の復興開始、78年は石油ショック(第2次石油ショックは79年)、そして2011年は中国の大躍進が背景にあるとみています。

1904年に関しては1800年代後半の重工業化の世界規模の大躍進、そして最後、日露戦争による資源需要への盛り上がり期待が資源価格を後押ししたとみています。33年から始まった2度目のサイクルは1930年大恐慌から立ち直りのきっかけを経て、大戦を通じて武器、船舶、航空機の爆発的需要、そして戦争終了と共に復興需要を囃したものです。62年から始まり78年にピークを付けたのはアメリカ経済全盛期、日本やドイツの戦後復興を通じて工業化の時代であり、96年から始まったのは第4次産業革命と称されるコンピューターやIT、ロボット化の時代を映し出したものであります。

しかし、同レポートによる今回のサイクルは2011年にピークを付け、14年には大幅な価格調整を余儀なくさせられています。よってサイクルという見方からすれば10年代は下向きの時期に入っていたことになります。ただ、同上レポートが2016年秋のものである点を勘案すると既に4度目のサイクルは終わり、5度目のサイクルに入ったとみるべきでしょうか?

1度目は33年間、2度目が28年間、3度目が33年間で仮に4度目は現在も続いてるとすればは既に25年経っています。商品相場を見続けた感覚としては昨年3月が4度目のボトムだったと思われます。つまり、4度目は2020年で終了しており、現在、5度目のサイクルに入ったとみるのが正しそうです。原油価格がマイナスになったのをはじめ、ベースメタルと称する相場はことごとく底値となりました。

では今回のサイクルはコロナ回復を期待したものなのでしょうか?きっかけはそうかもしれませんが、それは序章にすぎません。今回の需要はカーボンゼロを目指し新たな産業革命に向かう中での資源価格上昇だと考えています。以前にも述べましたが、過去の産業革命にはエネルギー資源が必ずついて廻っています。1度目が石炭、2度目が石油、3度目が原子力です。次は自然エネルギーなのでしょうか?

とすれば新しいエネルギー源をベースにして既存の経済構造を変えていくための大手術と考えれば、スクラップアンドビルトが起きているとみると腑に落ちます。例えば電気自動車を作るためのレアメタルや銅の需要は爆発的なものになります。それ以外にも新技術で突然、着目される資源が出てくるとみています。プレッシャスメタルである銀の工業用需要も高まっています。

では原油はどうして上昇するのでしょうか?この説明は以外と簡単なのです。原油の需要は将来どんどん減るという前提に立つと原油関連の事業者は事業のシフトを考えます。既にロイヤルダッチシェルやノルウェーのエクイノールがそれを発表していますし、今後、多くの関連企業で同様の取り組みが続出し、産油国も代替産業の復興を目指すとみています。サウジアラビアなどは10年も前からそれに取り組んでいます。

アメリカのシェールオイルも投資家がいて成り立つビジネスですが、シェールオイルはすぐに枯渇するのでどんどん新しいリグを開発し続けなくてはいけないのです。ところがバイデン政権は環境重視でESG投資(環境、社会、ガバナンス投資)もあり、投資家が原油産業へ資金を振り向けにくくなりました。

事実、関連の設備投資は5年前が44兆円規模だったものが現在は11兆円規模にまで下がっています。つまり、これは原油のあるなしではなく、供給ネック問題が起きるのです。よって現在、70ドルを越えてきた原油価格は今後、エネルギー代替が起きるまで上昇しやすくなるとみるのはナチュラルなのです。

原発開発も一部では続くとみています。中国で放射能漏れか、という報道が少し前にありましたが、これもすぐに収まりました。原発と言えばウランが必要ですが、ウラン相場も先行きかなり強気の見方となっています。全く新しいコンセプトの小型原発開発は至る所で始まっています。

資源価格の上昇は物価上昇につながりやすいため、インフレはじわりと進むでしょう。日本経済は価格上昇に異様な抵抗を示すため、買い負けの続出で原材料が入らなくなり、経済に逆風が吹く可能性はあるかもしれません。インフレになってもぐらつかない耐性をつけることが重要になってきそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月29日の記事より転載させていただきました。