とにかく新型コロナの感染拡大に関しては、科学的な議論でなく感情論がはびこっている。ここでオリンピック開催に対する感染防止対策について、科学的に整理して考えてみたい。
まず無観客にすれば感染拡大しないのか?
ヨーロッパで行われているサッカー大会で感染拡大していることが話題になっている。しかし、これは観客席で感染しているのだろうか。以下は共同通信の記事。
もう見出しに書いてある。「競技場やパブで拡大か」である。実際は、競技場よりもパブで拡大したと考えるほうが自然だと私は考える。
つまり、無観客にした所で人が集まって酒を飲んで騒げば、そこで感染するのである。むしろ、競技場内の方が監視されている分、安全なのだ。
だから、感染防止のために無観客にする、というのは、ちょっと違う。
次に、開催時間が遅くなれば感染拡大するのか?
そもそも「夜の人流が増えたら感染拡大する」ということへの根拠は何もない。夜遅くなれば酒を飲んだ人が増えて感染拡大する可能性がある、ということならわかるが、五輪会場から帰る人が酒を飲んで大騒ぎするのだろうか。
私の経験からすると、試合終了が遅くなると、寄り道せずに早くホテルに帰りたくなる。それが普通じゃないだろうか。
以前、サンフランシスコでNFLの試合を観たことがある。マンデーナイトゲームという、アメリカで同日同時間帯でただ1試合行われる試合。サンフランシスコフォーティーナイナーズが本拠地にしていたキャンドルスティックパークが、老朽化で取り壊される最後のシーズン。しかもシーズン終盤でプレーオフ進出がかかったスティーラーズとの一戦。とにかく盛り上がった。
今日の話で大事なのは試合終了後のこと。試合はそりゃ盛り上がった。でも、終わったら早く帰りたいのよ。ダウンタウンへのシャトルバスを待つ間もバスの中でも、みんな無言。もう疲れてます。バスを降りてホテルに向かう道で、確かにパブで大騒ぎしている人は沢山見かけた。でも、スタジアムから帰る人は、とっとと家なりホテルなりに帰っていたのが現実だった。ホテルに着いたのは12時回ってたかな。早く帰りたかったよ。
この経験からすると、スポーツイベントは終了時刻が早いより遅い方が、帰りに飲みに行ったりしないので、感染防止にはいいことだと私は思う。
それ以前に、そもそもスポーツイベントで感染拡大して問題があるのか。最初のサッカーでの感染事例でも、感染したのは主に若い人だ。若い人が感染しても、重症化率は低く医療逼迫の原因にはならない。そして、若い人が高齢者に感染させているという確たる証拠も、ない。永江一石氏の分析によると、『「若者は若者同士で」「高齢者は高齢者同士で」伝搬する』のが現実なのだ。
今はコロナ対策で何を目的にしているのかが完全に見失われていることが最大の問題である。そもそも医療逼迫を避けるためで、適切な医療を受ければ死なずに済む人が、治療を受けられずに死ぬのを防ぐことが目的だったはずだ。それがいつのまにか、感染者でもない「PCR陽性者」を1人でも増やしてはいけない、に変わってしまった。
このことについては、「東京2020大会における新型コロナウイルス対策のための専門家ラウンドテーブル座長」岡部信彦氏の発言をもとに私の意見を述べたい。
「開催中も医療逼迫なら中止を」 東京五輪の感染対策をアドバイスしてきた専門家が譲れないこと
つまり車輪の片方しかなく、その動きもだいぶ鈍くなってきたところに現れたのが、ワクチンという医薬品による感染症対策(phaemaceutical intervention)で、これで今までの一輪車から車の両輪が揃ってきたことになります。この両輪を回していくと、感染者(陽性者)が増えたとしても、重症者の割合は低下することが期待でき、今よりは条件が違ってくると思います。
仮に新規感染者数が1000人を超えたとしても、その中で重症者がたくさん出てくるようでは困りますが、重症者の割合が少なくなれば、医療は落ち着いて診ることができる。
(上記リンク先より引用)
現在、ワクチン接種が進んだ影響もあってか、新規陽性者に占める高齢者の割合は大きく減っている。高齢者の感染者が増えなければ、大きな問題にはならないのだ。またイギリスの事例を見ると、今日本でも広がっていると思われるデルタ株は、重症化率が低い可能性も高い。
たとえオリンピック会場で感染が広がったとしても、観戦者に占める高齢者の割合が低ければ、そこまで大きな問題にはならないはずなのだ。
オリンピックに関する問題に限らずコロナ対策については、1年以上騒動が続いているのだから、もう少し科学的な根拠をもとにした議論を進めてもらいたいものだ。