まず最初に、EUの「ワクチンパスポート」とは何なのか、ということから説明する。
日本でいわゆる「ワクチンパスポート」と言われるものは、正式には「Digital COVID Certificate」であり、「ワクチンパスポート」と訳すのは無理がある。
例えば以下のサイトでは「コロナ安全証明=ワクチンパスポート」と説明されているが、「ワクチンパスポート」と訳すことは、私は不適切だと思う。
何故かといえば、EUの「コロナ安全証明」で証明されるのは、ワクチン接種歴だけではないのである。具体的には
- ワクチン接種歴
- PCR検査での陰性証明
- COVID-19から回復したこと
の3つのうちのいずれかの情報が認証されるもので、「ワクチン接種証明」ではないからだ。
そもそも「ワクチンパスポート」が何のために導入されるのかといえば、海外旅行の際に手間をかけないで済むためである。そして、外国人を受け入れるための条件としてEUの国が課しているのは、決してワクチン接種だけではなく、PCR陰性証明でも構わない。そうした入国条件を満たしていることをすぐに証明できることが目的であるので、「コロナ安全証明」と訳すのが適切で、「ワクチンパスポート」というのは不適切である。
そして日本人がEU諸国に入国できる条件は何なのか。私が以前「アゴラ」に掲載した記事をもとに説明する。
その後各国とも英国変異株の流行に伴い入国条件が厳しくなったが、それを緩めるにあたって、無条件にワクチンパスポートということではなく、従来入国を認めていた低感染国からの観光目的での入国は認めるようになると私は考える。日本も感染者数が減ってまたEUから低感染国だとみなされれば、日本人観光客を受け入れる国は増えると思われる。
※上記記事より引用
上記記事は5月21日に掲載されたものであるが、その後動きがあり、EUは日本人に対してはPCR陰性証明すら不要という無条件での入国許可をすることを6月2日に決定した。実際の入国条件を決めるのは加盟各国に権限があるので、現状は全ての加盟国が「日本在住の日本人なら無条件で入国可」という条件にはしていない。
7月3日現在、日本在住の日本人が入国する場合、フランス、ドイツなどはPCR陰性証明は必要で、オランダ、スペインなどはPCR陰性証明すら不要、いずれも入国後の自己隔離が不要になっているので、観光旅行も可能だ。
ちょっと面倒なのはイタリアで、基本的に日本人の入国は可能なのだが、Covid-19グリーン証明書がないと、入国後10日間の自己隔離が必要になる。
新型コロナウイルスに係る日本からの渡航者・日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国に際しての条件・行動制限措置(外務省HP)
●Covid-19グリーン証明書(注)保持の場合
日本、カナダ、米国から入国する際は、イタリア政府が定める以下のCovid-19グリーン証明書3種類のうち1種類を入国時に提示することで入国が可能。
(注)Covid-19グリーン証明書とは、以下のいずれかの内容を示すものa.欧州医薬品庁(EMA)が認めた新型コロナウイルスワクチン(2021年6月20日時点で、ファイザー製、モデルナ製、アストラゼネカ製、ジョンソン・エンド・ジョンソン製)を接種し、規定の回数のワクチン接種完了から少なくとも14日以上が経過したこと。
b.新型コロナウイルス感染症から治癒し、感染に伴い指示された隔離を終了したこと。
c.イタリア入国前48時間以内に抗原検査又はPCR検査を実施し、結果が陰性であったこと。
なお、Covid-19グリーン証明書を提示した場合は、入国後の自己隔離は不要だが、第三国を経由してイタリアに入国する場合は自己隔離を求められる場合があるので、事前に確認が必要。
上記HPの「イタリア」から引用。
ここで問題になるのは日本、カナダ、アメリカからの入国で入国後の隔離が不要になる「Covid-19グリーン証明書」というのは、入国者の各国政府が発行したものであることだ。
日本政府は「Covid-19グリーン証明書」を現在発行していないので、イタリア側が日本人の入国後隔離を免除する制度を作っているのに、現状ではその制度が利用できないのだ。
また、日本が仮に「ワクチンパスポート」制度を導入しても、今の話の流れだと、あくまで「ワクチン接種済み」を証明するだけで、新型コロナから回復した、あるいはPCR検査で陰性だったことは証明されず、この2つの条件のいずれかを満たしてイタリアに入国したい日本人は、入国後の隔離を強いられることになる。
もともとワクチンパスポートは「海外旅行ができるように」導入するはずのものである。そうであれば、日本の制度もEUのしくみに合わせるべきなのではないかと、私は考える。
(明日に続く。)