ウィーンに事務局を置く国際新聞編集者協会(IPI)は3日、香港で「国家安全維持法」(国安法)が施行されて以来、過去1年間で香港の「報道の自由」は著しく制限されてきたと指摘、「報道の自由」のシンボルでもあったタブロイド版「リンゴ日報」が6月24日に廃刊に追い込まれるなど、「国家安全維持法施行当時懸念してきた以上に、香港の報道の自由は悪化してきた」と警告を発し、「One year on ,Hong Kong security law takes aim at journalism」という見出しの記事を配信している。
IPIは報道の自由の促進及び保護、報道の実践の改善を目的として設立された世界的組織。1958年設立。120カ国以上が参与している。
中国の全国人民代表会議(全代人=国会に相当)常務委員会は昨年6月30日、香港での反体制派活動を犯罪として取り締まることができる「国家安全維持法」を全会一致で可決した。その結果、香港の民主化運動を推進してきた多くの活動家は「犯罪者」として拘束され、中国共産党政権を厳しく批判してきた「リンゴ日報」の編集員などは逮捕され、コンピューターなどの機材は押収され、経営者は資産を没収されるなどをして、発行できない状況に追い込まれていった。
IPIは「the law has become a direct threat to journalism, leading to raids on newsrooms, arrests of editors, and the closure of prominent pro-democracy tabloid Apple Daily」と記述している。ちなみに、「リンゴ日報」最終日号の見出しは「雨の中の辛い別れ」だったという。
「国安法」では、反国家的言動、香港の独立、分離的言動、テロ暴力、香港問題に介入する外国勢力との結託などは犯罪行為となる。「リンゴ日報」が北京の中央政府を批判し、国際社会に香港への支援をアピールする言動は制裁対象となるわけだ。国安法違反者は5年から10年の禁固刑を受けるという。一部の情報では、終身刑もあり得るというのだ。文字通り、反体制派の言動を完全に封鎖する狙いがあるわけだ。
国安法が施行されたことで、多くの香港市民はこれまで享受してきた自由が奪われると不安に駆られている。言論分野ではその懸念は現実化している。香港は1997年、英国から中国に返還されたが、その際、「香港特別行政区基本法」が基本法となり、「一国二制度」という独自の政治体制下で運営されてきた。香港市民はその基本法のもと、中国本土の国民が味わうことができない広範囲の自由を得てきた。それが昨年可決された国安法で終焉を告げたというわけだ。
国安法の第29条では「中国共産党政権を批判する言動は犯罪となる」ことから、反体制派言論活動は完全に封鎖される。また、香港に住む外国人が同法によって拘束されるばかりか、香港に居住しない外国人も同法第38条を適応することによって起訴される危険性が出てくることから、外国特派員がある日、香港当局によって拘束されるという事態も考えられるわけだ。
問題は同法が曖昧な表現で記述されていることから、「北京側の意向次第ではどのようにでも解釈できる」ことだ。IPIは、「当局が北京の政策に従わない人間を罰する際、同法は自由な手段を提供している」と指摘。その結果、「恐怖と自己検閲が広がっていく」と述べている。
(The law criminalizes acts of secession, subversion, terrorism, and collusion with foreign or external forces – but what constitutes such acts is vaguely defined, effectively granting authorities a free hand to punish those who don’t toe Beijing’s line)。
香港では今後、台湾問題、ウイグル人の人権弾圧などの少数民族問題といったテーマを取り扱うジャーナリストは「危険なビジネス」というわけだ。中国共産党政権はジャーナリストが超えてはならないテーマを報じれば、即強権を発動するからだ。IPIはリンゴ日報の創業者・黎智英(Jimmy Lai)氏のケースを挙げている。同氏は昨年8月10日、国安法違反で逮捕された。日刊紙や著名なジャーナリストへの圧力だけではない。オンラインニュース報道に対しても締め付けが行われてきた。「香港のジャーナリズムの未来は不確かな時代に突入した」(IPI)というわけだ。
IPIによれば、北欧の4つの新聞社、スウエーデン「ターゲンス・ニュへテル」、ノルウェー「アフテンポステン」、デンマーク「Politiken]、そしてフィンランド「ヘルシンギン・サノマット」が共同で中国の報道の自由弾圧に抗議する声明文を掲載している。
The world can no longer passively observe how China is suppressing press freedom in Hong Kong” the editors write in their statement. “We are following with increasing anxiety how our profession – free, independent and critical journalism – is being criminalized.
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。