米経済回復に黄信号?米10年債利回り1.3%割れの背景

米10年債利回りが7日に2月後半以来の1.3%割れを迎え、米経済の回復期待が急速にしぼんできました。

米6月ISM非製造業景況指数が60.1と4ヵ月ぶりの60割れに接近しただけでなく、雇用が49.3と拡大・縮小の分岐点50を下回り年初来最低となりましたよね。同製造業景況指数も60.6と36年ぶり高水準だった3月(64.7)から鈍化が続き雇用も49.9と分岐点割れと、米6月雇用統計と同じく、労働市場の改善ペースに息切れ感が漂う内容でした。

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米新規失業保険申請件数も、20年3月以来の水準まで減少した後、回復の足取りは鈍化。7月3日週では以下の通り、予想外に増加しています。

▽米新規失業保険申請件数、予想外に増加し雇用回復の鈍化を示唆

7月3日週までの米新規失業保険申請件数は37.3万件と、市場予想の35.5万件を上回った。2020年3月14日以来の低水準となった前週の37.1万件(修正値)を上回る。4月以降の14週間で増加したのは、これで4回目だ。

少なくとも共和党知事を抱える25州で、バイデン政権下で成立した失業保険支給上乗せなど特例措置を当初予定の9月6日から前倒しで廃止されつつあるが、求人数が過去最多を更新する割りに、労働市場の改善は遅々として進んでいない様子を表す。

6月26日週までの継続受給者数は333.9万人と、前週の348.4万人(修正値)を下回った。20年3月21日週以来の低水準となり、ここでは失業保険給付上乗せ撤廃が影響を及ぼした可能性がある。しかし、米6月雇用統計で長期失業者の割合が高止まりするように、継続受給者数の減少ペースは緩慢なままだ。詳細は以下の通り。

・新規失業保険申請件数(7/3週)→0.2万人増の37.3万件、3週ぶりに増加
・継続受給者数(6/26週)→前週比14.5万人減の333.9万人、過去8週間で4回目の減少
・失業者に占める被保険者の割合(同)→2.4%、5週連続で20年3月21週以来の低水準
・PUA(同) 9万9,001人、前週の11万4,186人から1万5,185人減少

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チャート:米新規失業保険申請件数は、20年3月14日週以来で低水準(作成:My Big Apple NY)

米6月中古住宅販売件数も4ヵ月連続で減少するなど、価格高騰という逆風により住宅市場の減速も著しい。住宅市場の先行指標となるMBA住宅ローン申請件数指数は7月2日週に前週比1.8%低下し、指数としては20年2月以来のレベルへ落ち込んでいました。足を引っ張ったのは、新規のローン申請で前週比2.3%低下していたものです。

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チャート:米5月中古住宅販売件数、4ヵ月連続で減少(作成:My Big Apple )

その他、米5月貿易収支をみても、消費財動向はさえません。輸入は前月比1.3%増の2,773億ドル。モノの輸入は1.2%増の2,347億ドルでした。内訳をみると、牽引したのは食品・飲料で前月比5.8%増と3ヵ月連続で増加し、産業財も同5.2%増と前月の減少を打ち消し好調でした。肝心の消費財はというと、同0.4%増にとどまり過去4ヵ月間にわたって増減を繰り返す状況。個人消費が力強い回復を示す内容とは言い難いのです。住宅市場が減速すれば、家具や電気製品、建築材・園芸などの消費への影響も見逃せません。

そこへきて、世界的なデルタ株の感染拡大、中国政府による海外上場企業の管理強化も重なって関連株価が下落する状況です。

さらに7月末の債務上限停止の期限が迫るなかで、米議会の着地点も不透明なままです。インフラ計画も、バイデン政権と超党派米上院議員団は6月24日に8年間で1.2兆ドル(そのうち新規投資は5,790億ドル)で合意したとはいえ、障害が残ります。民主党陣営は人的インフラとする育児・医療支援策(米国家族計画)との抱き合わせでの可決を目指す一方で、共和党がこれに真っ向から反対していますから安穏としていられません。

筆者は5月から米小売売上高の動向を通じペントアップ一巡を予想し、6月FOMC直後もテーパリングをめぐる議論の後退の可能性を指摘していましたが、米経済だけでなく世界的な経済回復をめぐる雲行きも怪しくなってきました。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年7月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。