在職35年など

石破 茂です。

東京都議会議員選挙の結果は今の有権者の気持ちを率直に現したものであり、衆議院選挙の先行指標となることをよく認識しなくてはなりません。事前には、自民党が大幅に議席を伸ばして50議席に迫るのではないかとの予想もありましたが、実際に街頭で演説し、選挙カーに同乗してみると、12年前の惨敗した時に近い雰囲気が感じられたばかりか、それ以上に冷ややかな無反応さに怖れに似た思いが致しました。

獲得できた33議席数は12年前の38議席をも下回るもので、「都議会第一党に躍進」などという大本営発表的な捉え方をして現状から目を逸らせていると、総選挙でも同じことが起こります。12年前の都議選に引き続いて行われた麻生内閣の下での総選挙で自民党は歴史的大敗を喫し、鳩山民主党政権の誕生を許してしまったのですが、それを知らない、もしくは忘れてしまっている自民党議員が多くなっていることを看過すべきではありません。「あの悪夢の民主党政権(の系譜を引く)のような野党に政権を任すわけにはいきません!」などといつまでも言っていると、「他党との比較ではない。一体自民党はどうなっているのだ?きちんと説明しない政治はもう要らない!」との大批判を浴びることは必定です。

そして、「総選挙には選挙の顔になるトップが必要だ」などという選挙目当てのゴタゴタなどは決してすべきではありません。有権者はそのような浅ましい動きをきちんと見透かすのだと思います。平成元年、当選一回生の頃、竹下内閣や宇野内閣の後継として、清廉さで知られた伊東正義元官房長官に総裁選への立候補をお願いに行ったところ「表紙だけ代えても駄目だ。自民党そのものが変わらなければならないのだ」と一喝されたことを、今深い感慨と共にしみじみと思い出しています。

kanzilyou/iStock

オリンピック開催を目前にして、東京都に四度目の緊急事態が宣言されることが決まりました。

メディアは感染者数の増加ばかりを大きく報じていますが、それが全てなのではありません。医療の逼迫が「感染者・発症者の数」と「病床数・医療スタッフ・医療機器」という需要と供給との関係で決まる以上、感染者数だけをセンセーショナルに報じることは著しく均衡を失しており、これが今日の混乱の最大の原因です。医療の供給体制の整備を進めないままに国民や善良な事業者に負担を強いていれば、やがて民心は離反していくのであり、これを我々は忘れてはなりません。

医療体制は防衛・警察・消防と共に公的なインフラなのであって、市場原理に全面的に任せるべきではありません。思想信条そのものは私とはかなり異なりますが、鳥取県米子市出身の経済学者である宇沢弘文博士(1928~2014)の考えを今改めて学ぶ必要性を痛感しています。

オリンピックの一都三県における無観客での開催が決定される中、唯一の主催者であるIOCのバッハ会長が来日しました。

バッハ氏の口から、主催者としてオリンピック開催の意義を語り、ここまで積み重ねてきた東京都や日本政府の努力に敬意を表し、もちろん偏にオリンピックのためだけではないにせよ、忍耐と負担に耐えてきた日本国民や東京都民に対する感謝と労いの言葉が当然あってしかるべきですし、そう期待したいと思います。オリンピックとは一体何なのか、その原点が問われる大会となる事だけは事実です。

この7日で、衆議院在職満35年となりました。今期で引退・転身する議員も多い中にあって、随分と長く務めてきたものだと思います。選挙区の有権者の皆様、長らくお支え頂いている選挙区内外の後援者の皆様、東京や地元のスタッフ、家族・親族には感謝の言葉以外ありません。一体何を為してきたのか、何を残せたのかを省みると忸怩たる思いばかりが募りますが、更なる研鑽努力を重ねる他はありません。

今週は「日本の医療の不都合な真実 コロナ禍で見えた『世界最高レベルの医療』の裏側」(森田洋之著・幻冬舎新書)、「NATOの教訓 世界最強の軍事同盟と日本が手を結んだら」(グレンコ・アンドリー著・PHP新書)、「10代に語る平成史」(後藤謙次著・岩波ジュニア新書)の三冊を大変面白く、大きな共感を持って読みました。ジャンルは全く違いますが、三冊とも映画評的に言うなら「一食抜いても是非!」という内容だと思います。

ウクライナ人であるグレンコ・アンドリー氏のロシア観は実に興味深く、とかく中国と北朝鮮の二国を念頭に置きがちな我が国の安全保障観を是正し、立体化するものだと思い、ご一読をお勧めいたします。

熱海に続いて今週は山陰地方を中心とする西日本が記録的豪雨に見舞われています。あまり耳慣れない言葉である「線状降水帯」とは「同じ場所で積乱雲が次々と発生して帯状に連なる現象」のことなのだそうですが、近年の異常気象による新しい現象なのかどうかも含めて、もう少し丁寧な解説をしてもらいたいと思います。

被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げますとともに、亡くなられた方の御霊の安らかならんことをお祈りいたします。

皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。


編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2021年7月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。