日本には会社が約250万社あるので社長も250万人いるとネットで指摘してます。必ずしもそうではなくてペーパーカンパニーなどは兼任社長が多いし、私は3つの事業会社の社長ですので社長の数で見れば200万人程度ではないかと思います。それにしてもずいぶん多いわけですが、社長にもいろいろいて絵にかいたような社業の将来を考える社長然とした方から実務は全部部下に任せて自分はゴルフに接待という名ばかり社長もいらっしゃいます。
社長の仕事はどんなものなのか、その給与は取り過ぎなのか、考えてみたいと思います。
まず社長の給与ですが国税庁の民間給与の実態調査が毎年行われています。最新の2019年度版を見ると資本金2000万円以下の企業の役員給与平均は582万円、2000-5000万円が832万円、5000万-1億円が1087万円、1億円以上が1279万円となっています。社長ではなく役員給与である点は間引いて頂かなくてはいけないのですが、意外と少ないという印象があるのではないでしょうか?ただし、平均ではなく、役員中間値で見るとざっくり資本金1億円以上の場合は2500万円ぐらいになりそうですし、更に社長ということであれば3000万円は固いところだと思います。
多くの方は給与や報酬の金額だけを見て自分との差を不満だとしているかと思います。しかし、社長は多くの社員やその家族、取引先を含めた船長であり、その船が無事に航海をする、そして荒天の時には安全に、穏やかなときには迅速に目的地に向かうべく24時間勤務体制で臨みます。
私は自営業の家に生まれ育ちました。定休日はなく正月以外は休まない店でした。かつての商店街の自営業なんてどこでも似たり寄ったりでした。休んだら客に逃げられるという今でいう機会損失を恐れ、とにかく働いていました。そんな私が企業に就職し、週休2日であるのを見て親は大変うらやましがったのをよく覚えています。
社長には人を使うのが上手な人と自分でやってしまうタイプがいるかと思います。私の場合は不動産絡みの事業主体ですのでマンパワーはさほど必要ありません。それよりある程度自分で実務をこなせるマルチタスク型である必要があります。特に不動産開発は設計、施工、販売、ファイナンス、法務などの中心に位置して、まんべんない知識が求められるため、自分でやる癖がついたのでしょう。
また、私の会社では経理を8社分をこなすのですが、私が4社分をやっています。やるというのは会計ソフトを使って銀行の入出金をベースに伝票処理しますので完全にゼロからの処理です。自分で税務申告書まで作っている会社もあります。慣れているので休憩時間の時間つぶしぐらいの作業です。それよりも社長にとって重要なのは出来上がった数字で、それを何度も見ながらその会社の成績の分析と将来を考えているのです。
マルチタスクと言えば、少し前に弊社のマリーナの顧客が自分のクルーザーを私どもの桟橋に激突させてしまいました。理由は船のリモコン操作がうまく作用せず操舵室の運転に切り替える前に間に合わずにぶつかったのです。(今の船はリモコンで前にも後ろにも横にも動きます。)船も損傷したのですが、マリーナにも当然損害が出ています。ところがこのオーナーは大きな産業用クレーン会社のCEOで事故のその日に一人で緊急補修し、残りも様々な機器を持ってきてほぼ全部自分で直したのです。
私のマリーナの顧客は6割が現役のCEOや社長、3割がリタイアしたオーナーや企業経営者ですがどの人も大体実務ができるのです。何千人、何万人もの指揮官は実務なんてできないだろうと思いきや、かなり細かいところまで知り尽くしている人が非常に多く、彼らとやり取りをしていると社長の能力はそんなに深かったのか、と思うことはしばしばなのです。
数週間前の日経ビジネスの編集長インタビューに帝人の鈴木純CEOが登場しています。帝人は100年以上続く繊維メーカーというイメージですが、今や最先端の技術を手に自動車産業ではティア1(自動車メーカーからの一次下請け)となっています。タイトルに「産業のトレンドセッターになれ」とありますが、繊維から先端技術へどんどん業容を変化させ、更に先の10年、20年後を見据えて着々と手を打っているスタンスに社長の鏡のような方だと感じます。
大企業になると構想を明白な方向を提示すればよいのですが、それが地に着いた指令なのか、絵に描いた餅なのかが分かるのは実務がある程度理解できていることが重要です。北米のトップは現場に出ないと言いますが、現場の事を思った以上に知っている経営者が多いのはコミュニケーションが豊かでいろいろな報告に色を付けずにインプットしている点もあるのでしょう。
日本電産の永守会長が週末は従業員からの大量のファックスに目を通す、というのも現場の様々なレベルの声を直接吸い上げ、それを様々な角度から焦点を当てているのだと思います。
社長の仕事は正直、楽ではないと思います。その重圧でなかなか自分の好きにはならないことだらけです。顧客に満足してもらい、従業員にしっかり安定した給与を払い、株主に明瞭で期待を持ってもらえる説明をし、金融機関から万全の支援を貰い、協力企業との信頼関係を築きます。更に成長戦略や中期計画に基づき、将来へのかじ取りをする、これらが本当の社長の仕事です。これを聞くと、社長なんてやりたくない、思う人が続出でしょうかねぇ?でも司令塔に立つ、ってやりがいあると思います。また社長の給与、高すぎ、なんてネット記事を見るとひと括りにしないでほしいとも思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月13日の記事より転載させていただきました。