破綻経済のラテンアメリカでも超富裕層の盛んな投資熱

ラテンアメリカの富裕者は米マイアミからスペインに投資先を移している

リフォーム中の建物。スペインのリフォームの場合は前面(つら)はそのまま保存して歴史の重みを保ち、内部をリフォームするというのが一般的。

10年余り前からラテンアメリカの富裕者は投資先としてスペインを選ぶようになっている。購買力の高いメキシコ人を筆頭にして、ベネズエラ、コロンビア、ペルーといった国々の富裕者もそれに続いている。例えばこの3か国の場合、自国の政治の不安定や金融への不審から、所持している資産の投資先としてスペインを選ぶようになっている。かつては投資先として、米国マイアミに関心がもたれていたが、今では歴史や文化において繋がりのあるスペインを選ぶようになっている。

 彼らの投資の一番の対象になっているのが不動産である。マドリードにある高級住宅の販売並びに不動産サービス企業レシデンシアル・セールズ・アドバイザリー・コリアーズ社のルイス・バルデス部長は、ラテンアメリカ人の投資先として7割がマドリードの高級住宅が集中しているサラマンカ地区に向けられていることを指摘した。

高級住宅の販売を手掛けるルカス・フォックス・マドリード社のメルセデス・プリード販売部長は「(彼らはコロナ禍で)訪問できないので、スペインで弁護士や信頼できる人を通して購入している」と述べている。(スペイン紙「エル・パイス」(3月20日付)から引用)。https://elpais.com/economia/2021-03-20/los-ricos-latinoamericanos-se-pelean-por-los-pisos-mas-exclusivos-de-la-milla-de-oro-de-madrid.html

更に、プリード氏は最近7年間にサラマンカとチャンベリの両地区で高級住宅の購入や、そのリフォームで5億ユーロ(600億円)が彼らによって投入されたことを明らかにした。そして「彼らはマイアミでの購入ではなく、マドリードにそれを向けるようになっている。数軒の住宅購入に1億2000万ユーロ(144億円)を投資したグループもある」と語った。

例えば、メキシコで最大規模のプロモーターのひとつディアス・エストゥラダ・イ・アビラ社はサラマンカ地区にあるクラウディオ・コエーリョ11番地のビルを購入した。

この不動産企業を指揮しているのはメキシコで女性富裕者ナンバーワンとされているマリア・アスンシオン・アランブルサバル氏だ。このビルには11軒の超高級マンションがあり、価格は195万ユーロ(2億3400万円)からペントハウス付きの279万ユーロ(3億3500万円)まであるという。(同上紙から引用)。

ベネズエラからの投資というのは一般に意外に見られるであろう。何しろ、現在のベネズエラは悲劇的で550万人が生活苦から出国している。しかも、国内は食料や医薬品から始まってすべてのものが欠乏している。ところが、国が窮状にある時でも富裕者は存在している。

チャベス前大統領から始まって政権に癒着して富を増やしていったオリガルキーに属する人たちである。国の富となっているべき資金が賄賂などに使われた額は100億ドル(1兆1000億円)以上と検事総長のタレク・ウイリアムズ・サーブ氏が指摘した。(スペイン紙「エル・パイス」(2018年9月10日付)から引用)。

しかし、この指摘額は実際のそれをかなり下回るものと思われる。フォーブスが2019年1月27日付で明らかにしたチャベス前大統領の娘マリア・ガブリエラ・チャベスがアンドラと米国に預けている資金だけでも41億9700万ドル(4600億円)だと指摘している。この資金はチャベス氏が政権に就いていた時に賄賂で稼いだお金だとされている。

フォーブス2019年1月27日付より

更に、チャベス氏の側近だった複数の人物がアンドラの銀行口座に預けている金額は20億ユーロ(2400億円)と指摘されている。(前述紙「エル・パイス」から引用)。

ベネズエラでチャベスそしてマドゥロとこの二人の大統領の政権中に富裕者となった人たちを称してボリチコス(Bolichicosと呼ばれている。ボリバル社会主義革命の青年たちという意味である。彼らはこの15年間に1億6000万ユーロ(192億円)をスペインに投資したという。その半分は不動産である。マドリードの高級住宅地区にある邸宅や市内の高級地区にある超高級マンションの購入である。それら古くなっている建物を購入してリフォームしたあと高額で販売するというやりかただ。

ボリチコスに属する富裕者でスペインに最初に投資したひとりはカルロス・ルイス・アギレラ・ロハス氏だ。彼はチャベス氏の警護のメンバーだった人物だ。2001年から2002年にSPを指揮した。2004年にマドリード州ポスエロ・デ・アラルコン市にあるモンテクラロ高級住宅地に97万ユーロ(1億1600万円)と査定されていた260平米の邸宅を購入した。現在の彼の資産は500万ユーロ(6億円)と推定されている。

その1年後にマドリード州のチンチョン市に500平米の別荘のある570ヘクタールの土地を購入。同様にマドリード市内で超高級マンションが収まっているビルを購入。更にガリシア州やマドリード州のアランフエス市でも不動産を購入している。アンドラにも650万ドルを預けているという。

ベネズエラの国連大使だったラファエル・ラミレス氏と電力公社の社長だったハビエル・アルバラド・オチョア氏も同様にスペインで不動産事業を拡大している。

ベネズエラの富裕者がスペインで不動産に投資するのを盛んにした人物に、アクセル・カプリレス氏と彼のいとこのミゲアンヘル・カプリレス氏でいる。この二人はベネズエラで不動産に関係したプロジェクト事業を展開させていたが、経済の衰退ともに彼らの事業も後退を余儀なくさせられた。

そこで、彼らの事業をスペインに移したのが成功した。現在、顧客の7割はスペイン人だという。ベネズエラ人もマドリードで高級住宅を購入する際には彼らがリフォームしたのを購入する機会も増えている。

一般にはベネズエラといえば悲惨なニュースで溢れているが、このように富裕者もいるのである。