私がマーケティングというものに目覚めた瞬間の話

人は人生ではっと気づく時がわりとある

この1年半、コロナの分析が面白くてずっとマーケッター目線のブログを書いてました。おかげでGoogleの検索エンジンからはぶっ飛ばされて(公的な組織以外がコロナについて書くと検索から外されるのです)検索からは激減ですよ。www 別にイイのだ、面白かったから。予測値や仮説も予言者ではないから外れたのも当然ありますが、42万人死ぬよりはよほどまともに(これをいったらみんなまともになるわけですが)的中したと自負があります。

kazuma seki/iStock

で、メルマガには「どうやったらマーケッターになれますか」的な質問がちょくちょく来ます。多くはネット広告(リスティング)の運用をしている人たちですが、広告運用ってマーケティングのごく一部で、これだけでネットマーケティングをやってるとはとても言えない。

マーケティング(マーケティング)というのは、商品やサービスの価値を設計して値付け・販促し、得た示唆からサービス自体の改善も含めたPDCAを回す一連のサイクル全てを言います。
どのユーザーの何のニーズを満たすのか、どんな差別化された価値にするのか、具体的にどんなサービス・UIにするのか、いくらお金をもらうのかを、マーケットリサーチやユーザーテストなどもしながら企画・決定して実装し進め、プロモーションにおいてはターゲットユーザーへのメッセージを決め、適切なプロモーションチャネルを選択して広告や営業を企画・実行。ユーザーの反応を見て分析・思考して、サービスをカスタマイズ・変更したり、PRの打ち出し方やチャネルを変えるなどし、ユーザーに価値を届けるためにあの手この手を尽くしたPDCAを進めます。
その一連の中で、もちろんSEMの広告運用をしたり、Googleアナリティクスを見てアクセス解析したりしますが、見て分かる通りそれはほんのごく一部です。一部しかやっていないのにマーケティング全部を自分がやっているということは、この新車はおれが開発したんだといって、実はスイッチの設計したみたいなものです。

みたいな回答をしています。いちからやるのは手っ取り早く大手広告代理店とか、アクセンチュアなどの上位コンサル会社に就職して修行するのがベストですが、実はわたしはそんなとこに在籍したわけではない。

わたしがマーケティングというものに目覚めたのはリクルートにいた時のある出来事がきっかけです。本日は昔話ですけどこの「気づき」について語ります。

データ解析と仮説を立ててはまる快感

当時、カーセンサーというセクションにいました。
いまは「中古車情報」とになっていますが、当時の社長であった江副さん(自分はいいイメージがない ww)からの突然の思いつきで「カーセンサーは新車も中古車も扱う総合誌となれ」というお触れが降りてきた。

営業は当然目標を持たされるが、中古車雑誌に新車の広告がはいるわけないし、そもそも新車広告はメーカーから電通などに年間計画で費用が回されている。だから営業に回ったところで予算が急に振り分けられるわけはないのだが、神様からご神託が降りたわけでやらなくてはならない。必死に新商品を考えた。

カーセンサーは当時、かなりのコストを掛けて毎年読者アンケートをとっていました。万単位で集まっていたのですが、広告代理店がまとめて小冊子にして中古車屋に配布していたのですが、詳細は誰も見ない。www
これを隅々まで見ることからはじめた。もちろん古い話だからいまは違うかもしれない。

中古車と新車は購入にいたる経路が全く違ってた

データを読み込んでいくとわかってきたことがあった。

1 新車と中古車は比較検討しない

中古車を探す人は「新車より割安」という視点から探すので、新車と中古車はまったく競合していなかった。300万の新車が中古だと200万だとすると、300万の新車を買う人は300万の新車から探し、300万の中古車は探さないのである。同様に200万の中古車を買おうとする人は車格が落ちる200万の新車は選択肢にはいらない。

2 新車と中古車は購入に至る経路が異なる

新車は同じ物がたくさんあり、中古車は一物一価であり、まったく商品特性が異なる。そして購入決定に至る経路がまったく違っていた。新車はカタログを見た段階で購入を決意した人が半数いて、当たり前だが中古車は実車を見た時が購入を決意するときだ。面白いのは新車はたしか実車よりカタログを重視する傾向があった。

ここまで来るとおわかりだと思うが、新車と中古車を総合誌にしたところでまったく比較検討しない商品で、それまで中古車専門だったところに新車の記事や広告をいれたところで誰もビクとも動かないのである。新車、中古車、外車、ヤン車とそれぞれの専門誌に業界も分かれていた。
普通なら「新車は無理です」というところで実際に上司には何度もそれをいったが答えは

「それを江副さんが聞いてくれると思うか。とにかくやれ」 www であった。

仮説を立ててそれを回してみる

そこで、仮説を立てた。

カタログを読んで大多数が購入を決意するなら、カタログをまんま別冊で付けたら効果が出るのでは?

というもの。
そのアイデアをプレゼンしたら、某大手メーカーの担当者が非常に興味を持ってくれて、1000万円の予算を付けてくれた。ヤッター!!!!であります。

しかし普通に入れても中古車誌として認知ができているから新車の購入を検討する人は誰も買わない。
で、わたくし考えました。

当時のカーセンサーは電車の中吊り広告を全線に入れていた。編集部と宣伝部に必死に交渉し、受注が取れたら中吊り広告に大きなスペースをもらって「ニュー××のミニカタログ付録」という告知をするのである。結果、メーカーとは契約が進み、発表前のクルマのカタログのデータを機密保持契約を交わして拝借し、新車発表の翌日にそれを付録にしてカーセンサーは発売された。

PDCAを回さないとマーケティングにならない

で、本当に効果があったのか、それを確認するためにメーカーさんにお願いした。そのニューモデルを買った人にひとりひとり手分けをしてお電話をして、どういうきっかけでその車を購入されたのか訊いていただいたのだ。

結果ですが・・・・なんと100名にお電話したら、数人がカーセンサーでカタログを見てと回答。これはめちゃくちゃ嬉しかった。仮説がはまった瞬間です。快感ですよ。これは。

で、トヨタ以外の国産、外車のメーカーから発注をいただき、この企画は何回かやりました。10回くらいかな・・・毎号ごとに1000万の売上。しかしまた江副神から
「Book in Bookは邪道だからやめるように」というわけのわからない通達が降りてきたのでこりゃダメだと思ってリクルートを辞めたのでした。もちろんその前に50ページに及ぶ上申書を書いて江副さんの机に置いてもらいましたが、見た形跡もないと言うことだったので・・・・www

そのあとすぐ、リクルート事件です。

日常の仕事に気づきは転がっている

たとえ、マーケティングを仕事でやらなくても、同様にマーケティングの能力のある人は世の中にはけっこういます。こうした「気づき」や仮説を立ててPDCAを回すことを得意にするタイプです。たとえ八百屋でもラーメン屋でも整体でも、無意識にやるところはやっている。

たとえばUNIQLOの柳井さんだってジャスコ四日市店で家庭雑貨売場で働いたくらいであとは家業を継いだだけでマーケティングなんてどこでも勉強していない。しかし世界でもっともPDCAを回した人の1人だと思います。コレができればマーケティングの仕事ができる。大事な事はきっちり成功体験を積んでいくことなんですよ。


編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2021年7月13日の記事より転載させていただきました。