北米の物価高と日本の物価安、もう一つの側面

アメリカで発表された6月度消費者物価指数は総合で前年同月比5.4%、食品とエネルギーを除いたコアで4.5%アップでこちらは30年ぶりの数値となりました。カナダも5月の時点で総合で3.6%、コアで2.2%となっています。一方、日本の5月の消費者物価指数は食品を除くコアで0.1%上昇、しかもプラスは1年2カ月ぶりという低迷ぶりです。いったい何がここまで差をつけるのでしょうか?

バンクーバー地区にあるショッピングモール内のユニクロは多くの人で賑わっています。週末となれば会計のところには2-30人が待つ状態で繁盛しているように見えます。ただ、パッとみると顧客の8-9割がアジア人なのです。白人層はかなりのマイナー層です。ある白人の顧客は商品をじっくり触ったあげく、ポイと投げてしまいました。質感が気に入らなかったのでしょう。

価格帯は確かに日本に見劣りしないぐらいでユニクロファンには躊躇なく購入できる水準だと思います。では白人は何処で購入するのでしょうか?

gradyreese/iStock

ルルレモン(Lululemon)はバンクーバー発祥のヨガウェアを中心とした人気ショップで世界に500店舗構えます。日本でも六本木ヒルズの旗艦店など主要エリアに出店しています。ユニクロからルルレモンに移動するとそのギャップ感はすさまじいものがあります。店づくりが落ちついていて、店員もしっかりした客対応をします。但し、価格はユニクロの数倍を覚悟しなくてはいけません。しかし、こだわりの白人で店内は大変混雑しています。

もちろん、白人好みのアパレルチェーンは数えられないほどあります。ではなぜ、白人好みとアジア人好みが分かれるのでしょうか?個人的にはアジアに対する意識の差がまだまだ強い気がします。アジアン デザインのシャツに身を包む、に抵抗があるのかもしれません。

高級車市場ではレクサスは確かに頑張っていますが、カナダではベンツやアウディどころかフェラーリやマセラッティが普通にそのあたりを走っています。アメリカなら巨大なアメ車が幅を効かせているのでしょう。

インフレの背景には価格より価値観重視の消費志向が見えています。オーガニック商品を扱うホールフーズは現在、アマゾンの傘下にありますが、独自の進化を遂げたと思います。それはオーガニック=健康志向=ライフスタイルのトレンドセッターという考え方です。つまり、ホールフーズの紙袋をもち、時代の流れをしっかりつかんでいることが北米の一定収入がある人達に強く支えられているのでしょう。

ブランディングというマーケティングの考え方がありますが、ブランドイメージを作り上げ、それを壊さず、かつ顧客と圧倒的なコミュニケーションをとる、これが欧米の流行モデルの在り方です。ですので、先ほど述べたようにルルレモンの店員は必ず、顧客を満足させるためにお手伝いをするという姿勢をもっているのです。私が人気のあるブランド店で衣料を購入したら会計の際、「店員はご購入に際してお手伝いしましたでしょうか?」と聞くのです。いや、なかったと答えると「大変失礼しました」と言われました。北米にいるとこのような会話は当たり前のように聞こえるのですが、日本では確かに少ないかもしれません。

ユニクロで2-30人並んでいる、これが白人受けしないのかもしれません。それは待たせることではなく、アジア人に混じるのが嫌な白人がそれを避ける、と言った方がよいのかもしれません。白人はお金を持っているか否如何にかかわらず、個人が尊重されることを重視します。一方、日本を含むアジアの場合、プライドも何もあったものではなく、安ければ飛びつくというスタイルです。これはまるで対極の関係であり、この価値観の違いは何十年経っても変わらないのだろうと思います。

北米でのインフレはきちんとしたものをきちんとした価格で購入する、これが根底にあります。SDG’sでフェアトレードという考え方があります。公正取引と訳され、その商品がきちんとした会社を通じてきちんと人件費を支払い、きちんとした流通を通じて取引されたものという考え方です。当然、これには付加価値が付き、価格はちょっと高くなる傾向があります。しかし、購入者はそれに躊躇なく支払いをします。なぜでしょうか?もちろん個人の満足感でもありますが、エキストラを払うことで社会還元しているという考え方が背景に見え隠れするのです。

もちろん、こんなことを言うと「どう還元されるのだ?」とつっかかってくる方もいらっしゃるでしょう。そういう屁理屈ではなく、個々人の感性が束になり、大きな輪となり、うねりとなりトレンドを作ると言ったらどうでしょうか?

インフレになっているのはまだ消費余力があるから、ともいえるのかもしれません。最近の北米の消費傾向は日本の感性と差が広がったような気がします。「お金は循環する」を踏襲しているということでしょうか?ただ、この物価高は消費余力を確実に奪っていると思います。レストランに行く回数も減るし、衣料の購入点数も減らざるを得ないかもしれません。私は最近、牛肉を買うのにためらいを感じるようになりました。それ位高くなった感じがします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月14日の記事より転載させていただきました。