コロナ禍でキャンセル訴訟…結婚式場は生き残れるのか

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

弁護士ドットコムニュースに、衝撃的な記事が掲載された。コロナで結婚式をキャンセルしたことで、式場が新郎新婦を訴えたというものである。まさか新郎新婦の最初の共同作業が「訴訟対応」になるとは夢にも思わかなったはずで、関係者の心情を想像すると本当に心が痛くなる話だ。

PeterPhoto/iStock

式場側も新郎新婦側も必死

今回、争点となったのは緊急事態宣言下における挙式が「不可抗力か否か」という点だ。新郎新婦側は「コロナによって想定していた挙式があげられなくなった。不可抗力によるものだ」と自己都合解約にはあたらないと主張。一方、式場側は「一律での無償対応をすると経営破綻に追い込まれてしまうために、止む終えない対応だ」としている。

式場側としても、新郎新婦側の要求を素直に受け入れて前例を作ってしまうことを恐れているものと感じられる。過去に遡及して返還要求が続くことになれば、恐ろしいことになるのは明白だ。本来はどちらも悪くないはずの、生き残りをかけた悲しい争いである。

結婚式場は生き残ることができるのか

日本ブライダル文化振興協会の調査によると、2020年4月~2021年3月の1年間で、約9,500億円もの巨額の損失が生まれ、約27万組のカップルが結婚式を延期したという。まさしく、現在進行系で恐ろしい事が起こっているのだ。「キャンセルではなく、延期であれば後からお金が入ってくるのでは?」と思われるかもしれない。だが、キャッシュフローが悪化すれば、入金前に倒産の可能性が出てくる式場も出てくるだろう。決して安穏としていられる事態ではない。

そしてこの訴訟に関わらず、マクロの視点で見てブライダル業界は厳しい状況に置かれていると感じる。特に厳しいのは結婚式を挙げることに特化して作られた「専門式場」だ。ホテルであれば、部屋を式場に使う他、会議室や企業のイベントなどで会場を活用できるが、専門式場はそうはいかない。強いて言うなら、ドラマなどの撮影に使えるかもしれないが稼働率は絶望的に低いだろう。

結婚そのものの件数が減少し、結婚しても式を挙げるカップルも減っている。また、式を挙げても少数の参加者でコストを抑えるジミ婚、スマ婚なども広がりつつある。先行きの明るい展望は依然として見えないままだ。

個人的に結婚式というイベントの存在意義の支持を表明したい。確かに高コストで大変な労力を要するものだが、それだけの価値はあると感じる。一刻も早くコロナの脅威が去り、ブライダル業界も平穏を取り戻す日が来ることを祈らずにはいられない。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。