大谷翔平選手の打撃はどこが他の選手と違うのか

藤原 かずえ

メジャーリーグの大谷翔平選手の前半戦の活躍は素晴らしいものでした。特に33本塁打は独走しており、OPSも全体で2位という成績です。大谷選手の打撃はどこが違うのでしょうか。分析してみました(冒頭写真はMLB.comより引用)。

大谷選手の打撃データを見てみると、平均打球速度5位(93.7MPH)、平均飛距離2位(210ft)、ハードヒット率3位(56.9%)というように、単純な打撃のスペックだけを見ると、必ずしも圧倒的な差をライバルにつけているわけではありません。そんな中で、大谷選手が他の選手と比較して圧倒的な差をつけているのが【バレル barrels】の数です。バレルとは、MLBの過去の経験的データから得られた安打・長打になりやすい打球のことであり、打球の速度と角度の組み合わせが一定の範囲内に入るときバレルと認定されます。

MLB.comより引用

大谷選手は、このバレルの数がMLBの選手の中でダントツの1位となっているのです。

そして、このバレルの数に大きな影響を与えていると考えられるのが、【フライ/ライナー打球速度比 FB/LD exit velocity】です。

大谷選手はメジャーリーグで打球速度が計測されて以来、最大の値である101%を記録しています。なんと大谷選手はライナーよりもフライの方が打撃速度が高いのです。「ビッグ・フライ・オオタニ・サ〜ン」という表現はデータから見ても的確なのです。

それでは、なぜ大谷選手はフライ/ライナー打球速度比が高いのでしょうか。それには、大谷選手のスウィングの軌道が関係しているものと考えられます。

大谷選手は「アッパースウィング」と言われていますが、私はこの表現は必ずしも正しくないと考えます。ちなみに私、野球のバッティングフォームには少々うるさく、常日頃から連続写真が載っている写真集を眺めては、知的好奇心を満足するためだけに、ガチの研究活動を行っています(笑)。大谷選手のフォームには大きな関心を持っています。

日本のプロ野球ではレベルスウィングが理想的と考えられていますが、MLBの成功した長打者は次のヴィデオで説明しているような【スウィングの軌道 swing path】を実践しています。

[Swing Up or Swing Down?]

すなわち、MLBの成功した長打者は、ボールとのコンタクトの直前まで【スウィング・ダウン swing down】し、以降は【スウィング・アップ swing up】する軌道を描くことを実践しているのです。

この軌道を実現するにあたって、後方(キャッチャー側)に体を傾けるのは誤りです。後方に傾けた場合、最初から最後までスウィング・アップになり、スウィングの軌道が長くなります。これでは高度な投球技術に対しては対応し難くなります

それではどうすればよいかということですが、MLBの長打者は、日本の選手が普通に行っているレベルスウィングを上半身をホームベース側に傾けながら行っています。このようにした場合、レベルスウィングの軌道は傾くこととなり、ボールとのコンタクト直前までスウィング・ダウンで以降はスウィング・アップする軌道となります。ちなみにこれは単純な一次変換であり、幾何学的に簡単に証明できます。

大谷選手はまさにこのスウィングの軌道を実践しています[MLB大谷選手ホームラン映像]

しかも大谷選手の場合にはホームベース側への傾きが他の選手よりも大きいため、ボールとのコンタクトポイントでより打球に角度がつくのです。この打ち方ができる選手は最後まで胸元を投手に見せることなく、ボールを引き付けて叩くことができます。大谷選手が左右投手の様々な球種に対応して本塁打を量産しているのもこの懐の深いコンタクトポイントにあるものと推察します。

現在、大谷選手と同様のスウィングの軌道を描く選手がマイク・トラウト選手です[Trout’s swing path]。また、各時代のホームラン王であるバリー・ボンズ選手もサミー・ソーサ選手もマーク・マグワイア選手もハンク・アーロン選手もウィリー・メイズ選手もベーブ・ルース選手も基本的にこの軌道です。

なお、大谷選手がインコースをレフトに飛ばすことができるのは、状況に応じてボールの内側を強打している証左と考えます。加えて、大谷選手の場合は、直前まで腰を左側に絞りながらタメを作り一気に爆発させるように右側回転します。ホントに芸術的です(笑)

日本のプロ野球でこの軌道を実践しているのが、ソフトバンクの柳田悠岐選手です。巨人の阿部慎太郎選手もこの軌道でした。そして何より、世界のホームラン王である王貞治選手もこの軌道でした。王選手の構えはベース側に上半身を大きく傾けるものでした。王選手は「ダウンスウィング」を強く意識したと言い続けてきましたが、実際にはコンタクトの直前でスウィングアップに移行しています。数々の映像を見れば一目瞭然です(笑)

いずれにしても、大谷選手の打撃フォームはライナーよりも速いフライを打つことができる芸術品です。今後の活躍が楽しみですね!

 


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2021年7月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。