大谷絶賛の裏には米球界の計算
大相撲名古屋場所で、6場所連続休場明けの横綱白鳳が45度目の優勝を飾りました。新聞は「白鳳伝説まだ続く」「白鳳鬼の形相」(読売新聞)と、絶賛しました。白鳳と準優勝の照ノ富士は2人ともモンゴル出身です。
日本人力士は大関貴景勝が4日目から休場、同朝乃山は全休、関脇高安は2休、前頭筆頭の遠藤は10休でした。上位力士がほとんど土俵に上がらず、不振極めました。技能賞の豊昇龍もモンゴルです。
白鳳の全勝Vによる復活は立派です。それ以上に日本人力士が弱すぎた。どうぞモンゴル出身の力士が勝って下さいと、言わんばかりの場所でした。スポーツ・ジャーナリズムはどうしてそうした視点で記事を書かないのか。
絶賛している場合ではないのです。報道に思慮や深みがない。
米メージャーで大活躍の大谷選手は凄い。「野球選手を超越」「野球に関心のない人間まで引き付けている」「ベーブルースを超える」と、米国紙も絶賛、朝日新聞も一面トップで扱った日がありました。
日本球界のトップ級がほとんど米メージャーに流出し、日本のプロ野球はまるで2軍戦です。見たくもない。松坂(西武)や上原(巨人)もぼろぼろなるまで米国で戦って消耗し、帰国したものの燃焼しきっていました。
スポーツに限らず、日本のジャーリズムは表層的な報道に終始しています。政治系も政界裏話の掘り起こしには熱心でも、政界の構造的な病については目を向けない。スポーツも政治も共通しています。
大相撲に戻りますと、白鳳と貴景勝の体系を比べてほしい。将来の横綱として期待したい貴景勝は、大きな腹と足腰がいかにもアンバランスです。これでは歩くのが精一杯です。案の定、対戦中に転んで怪我し、休場です。
白鳳は36歳にしては、体のバランスがよく、練り上げた技を生かすべく自在に動いています。スポーツ学の研究者、栄養学の専門家などをいれ、相撲研究所を創設し、江戸時代から変わらない伝統芸から、近代スポーツへとしてなぜ脱皮させていく組織にしないのでしょうか。
「仕切り線よりずっと後ろで構えた奇手は許せない」「肘のかち上げ、張り手を使ったのは横綱として見苦しい」。その通りです。問題は「俺たちが不在だったたら、相撲界は成り立たない」となめられている結果です。
相撲協会の理事10人は全員が力士出身です。これでは新しい感覚で相撲界の将来を考え直すことはできない。外部理事として入っているNHK理事OB、全国紙の社長らにもそういう意識はないようです。
相撲界に外部の人材を招き、最新の運動学、スポーツ・ビジネス・モデルの導入を進めてほしい。伝統芸の意識から脱皮して欲しい。
米国で大谷選手の活躍を球界関係者、スポーツ・ジャーナリズムがこぞって絶賛しています。プロ野球がアメリカンフットボール(NFL)やバスケットボール(NBA)におされ、必死で盛り返そうという意図が背景にある。
そのためには、大衆の人気をいかに取り戻すか。「投打二刀流も大谷の好きなようにやらす」「球宴では先発投手で、一番バッター」も計算づくの奇手でしょう。客集めに何でもやってみる。日本は旧態以前のままです。
大谷のホームラン量産は、野球をいろいろな角度から科学的に分析し、数値化し、技術を磨くという試みの結果です。データ分析によって、すくい上げるように打つと、飛距離が最も伸びる角度にボールが飛んでいく。そうしたフォームに耐えられるように、筋力もつける。
日本の球団の社員の多くがオーナー企業からの出向者で占められ、外部人材の採用に熱心ではない。海外では、一流企業出身のビジネスマンがヘッドハントされる。スポーツにビジネスマインドを持たせるべきなのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年7月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。