英国とカナダの首相がコロナ禍の出口戦略を試行開始

英国のジョンソン首相とカナダのトルドー首相が、ポストコロナに向けた出口戦略の実験を始めた。とかく事なかれ主義に流され、無観客でのオリパラ開催を始め、厳しめの対策を取りがちな我が政府、オリパラ5者メンバー、専門家や医師会などに、二人の爪の垢を煎じて飲ませたい。

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ジョンソン首相は、イングランドに限り、19日からコロナ禍での法的規制を大幅に緩和した。集会やイベントの人数制限や、パブやレストランの屋外座席の制限が廃止され、ナイトクラブの営業も再開された。マスク着用は推奨されるものの法的拘束力はない(BBC)。

英国でも目下デルタ株が拡大しており、16日と17日の感染者は各々5万人を超えた。18日も4.8万人に上り、陽性が判明してから28日以内の死者は25人だった。御多分に漏れず、専門家の多くは夏場の1日当たり感染者が20万人の達する可能性があると警告している。

他方、ワクチン接種は進捗していて、成人の約88%が1回目のワクチン接種を終え、68.3%が2回の接種を完了しているという。このためか、新型コロナによる入院患者や重症患者、死者などの数はこれまでの流行の波に比べて低くなっているとされる。

自身も昨春感染したジョンソンは、今回の措置について「今やらなければ、いつできるんだ、と自問自答することになる」とし、「しかし、ロックダウン緩和は慎重にやらなければならない。ウイルスが残念ながらまだ出回っていることを、念頭に置く必要がある。感染者は増えている。デルタ株の感染力は非常に強い」と述べる。

前掲BBCにある主な緩和項目は以下のようだ。

  • 集会の人数上限は撤廃されるが、できるだけ屋外で会うよう推奨される
  • 現在、在宅勤務中の人も、徐々にオフィスに戻ることが推奨される
  • ナイトクラブは営業を再開する。劇場や映画館では収容人数制限がなくなる
  • 企業や大型イベントは、ワクチン接種証明や陰性証明などを利用するよう推奨される
  • 交通機関などの公共空間では顔を覆うことが推奨される
  • 社会的距離を保つ施策は義務ではなくなる

但し、ナイトクラブの営業や大型イベントは、国民保健サービス(NHS)が提供する「COVID PASS」によるワクチン接種の確認が推奨され、濃厚接触者の追跡や自主隔離要請なども継続される。この、いわゆる「ワクチンパスポート」については後述する。

一方のカナダはワクチン接種者を対象とした水際対策の緩和だ。カナダ公衆衛生庁は19日、完全にワクチン接種された旅行者のための国境措置の緩和を発表した。ここでいう「完全に」とは「2度の接種が必要なワクチンで2度接種し終えている」などの意味。

ポイントは、政府が承認したワクチンのフルコースを、入国14日前までに終えるなどの条件を満たした入国者は、入国当日に抜き取りのCOVID-19分子検査(PCR検査)対象に当たらない限り、到着後の検査を必要としないというもの。

目下のところ承認されているワクチンには以下がある。

  • ファイザー-BioN Tech(Comirnaty、tozinameran、BNT162b2)
  • モデルナ(mRNA-1273)
  • アストラゼネカ/ COVISHIELD(ChAdOx1-S、Vaxzevria、AZD1222)
  • ヤンセン/ジョンソン&ジョンソン(COV2.S)

他方、承認されていないワクチンは以下で、将来拡大する可能性があるとの但し書きがある。WHOが推奨している中国の2種(医学誌Lancetは15日、Sinovacの抗体価がBioN Techの10分の1との研究を公表)はリストに含まれていない。

  • バーラトバイオテック(コヴァクシン、BBV152 A、B、C)
  • Cansino(Convidecia、Ad5-nCoV)
  • ガマラヤ(スプートニクV、ガム-コビッド-バック)
  • シノファーム(BBIBP-CorV、シノファーム-ウーハン)
  • Sinovac(CoronaVac、PiCoVacc)
  • ベクターインスティテュート(EpiVacCorona)
  • その他

ワクチン接種以外の要件には、「入国資格を満たし」、「無症状で」、「事前に所定の情報入力を済ませている」ことがある。これらの要件を満たす入国者は、検疫、ホテルでの短期滞在(航空機での入国者の場合)、そして8日間の検査を免除される場合があるとされる。

カナダ政府は、全ての任意の入国者について、この措置を9月7日から実施するとしているが、米国市民と米国永住者に限り8月9日から先行実施する。接種を受ける資格がない12歳未満の子供なども、同行する限りは14日間の検疫が免除される。

カナダのワクチン接種率は、出だしこそ遅れたが着実に上昇しつつあり、直近では総人口の49.6パーセントとなって、米国の48.6%を上回ったようだ。

以上の2件に共通するのは、ワクチン接種と為政者の勇気だ。世界中がワクチン頼みになっている現状を認めない訳にはいかない。筆者はこの1月3日、「コロナ狂騒曲は『いつ終わるのか』ではなく『いつ終わらせるか』の問題」との出口戦略らしきことを投稿した。

まだワクチンの「ワ」の字もない頃で、少々先走り過ぎた。が、コロナウイルスが時間の経過とともに弱毒化し、それに連れて感染し易くなるものの、やがては季節性のインフルエンザの一種になってゆくという論は、ワクチンが「究極の弱毒化ウイルス」であることからも、素人なりに腑に落ちたる。

まして集団免疫ができる程度までワクチン接種が進み、また感染から回復した者が増えれば、コロナ禍を「終わらせる」ことができるだろう。そこで、問題は当面のワクチンパスポートだ。

ある国が外国からの入国者にワクチンパスポートを求めることは、検疫の一環として検査の陰性証明を求めるのとほぼ同義であり、カナダのケースはこれに当たる。が、英国の緩和措置の一部で推奨される「NHSが提供するCOVID PASS」によるワクチン接種の確認はどうだろうか。

筆者はこれには否定的だ。体質などの理由からワクチンを接種できない者が必ず存在するし、一度罹って回復した者にはワクチン同様の免疫ができていよう。そもそも死の危険のある高齢者には、かなりの程度で接種が進んだ。若い者は罹っても多くは重症化せず、死にもしない。

これらを考えれば、飲食店やイベント会場や公共施設などへの入場に、ワクチンパスポートを求める必要などないのではなかろうか。これとほぼ同じ観点から、ワクチン接種済のオリパラ選手の措置についても再度改めて提案したことがある。

筆者は6月初めに「ワクチン接種オリパラ関係者はPCR検査を免除すべき」と題して投稿した。根拠は米国のCDCがワクチン接種者の検査を免除しているからだ。今回のカナダの水際対策の緩和もCDCと同じ措置だ。

20日の時点で、来日した数名の出場選手が検査で陽性になったとの報道がある。が、残念ながらそれらに関し、対象者がワクチン接種済であるか否か、症状の有るなし、入国前の検査結果の如何、などの詳細が報じられている訳ではない。国民はこのことこそ知りたいのに。

カナダの緩和は物見遊山の入国者ですら、ワクチン接種などの諸要件を満たせば爾後の検査は不要だ。ましてオリパラ選手にとっては一世一代の晴れ舞台、接種済みならば放っておいてやりたい、との筆者の考えはますます強まっている。

観客を入れるとか、ワクチン接種済みの選手の検査をやめるとかいった朝令暮改は、たとえ開会式の後であろうと歓迎だ。どうかオリパラの5者には、ジョンソンとトルドーを見習って欲しい。