ウェブアクセシビリティ規制の更新に動き出した米国

米国連邦政府の提供するウェブコンテンツにはアクセシビリティ確保の義務がある。その技術基準がウェブコンテンツアクセシビリティガイドライン2.0(WCAG2.0)である。

WCAG2.0は、2008年にW3C勧告として公開された。ウェブサイトは知覚可能・操作可能・理解可能で、かつ堅牢でなくてはならないという原則に基づき、検査可能な達成基準61を提供する。ここで「堅牢」という言葉は、通常のブラウザーだけでなく、スクリーンリーダなどの支援技術も利用できるといった意味で使われている。

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その後、WCAG2.0は、2012年にISO/IEC 40500として国際標準化された。技術進歩が著しいウェブ技術分野で、公表後13年がたつのにいまだに使われているのは、WCAG2.0の技術基準が技術中立的に記述されているからである。技術中立的というのは、特定の技術ではなく、どんな技術に対しても適用できる原則を規定するという意味である。

そうはいっても社会は変わってきた。スマートフォンが広く普及し、パソコンよりもスマートフォンが情報の入出力手段として利用される時代になっている。観光案内のために、寺社仏閣のリアルな映像に拡張現実の映像を重ねて表示するといった利用例も出てきている。

ウェブアクセシビリティ技術基準にもこのような経済社会の変化を反映させるべきだとして、今、WCAG3.0の開発が進んでいる。

WCAG3.0は障害者等の多様なニーズにより一層対応することと、拡張現実・仮想現実・複合現実や音声入力などの新しい技術に対応することを目標として掲げている。2021年に原案が公開され、勧告化は2022年以降の予定である。

米国連邦政府でアクセシビリティ技術基準を担当する連邦アクセス委員会は、最新のWCAG3.0の採用に向けて動き出した。まずは公開フォーラムを開催して、広く意見を聴取することになっている。

わが国では、公共機関が提供するウェブコンテンツについて何らの義務規定はない。WCAG2.0を利用することが総務省「みんなの公共サイト運用ガイドライン」に書かれているが、このガイドラインに強制性はない。

新しい技術基準の採用に動き出した米国に対して、一時代前の技術基準すら義務化していないわが国は大きく遅れている。デジタル庁発足とともに、「誰一人取り残さない」ために、せめてWCAG2.0を技術基準として義務化するように動き出してほしいものだ。