ワクチンで集団免疫は作れるか?:コロナ対策の現在位置

1918年から1920年にかけて流行したスペイン風邪は、ワクチンも特効薬も無い中で世界の人口(当時18億人)の半数から3分の1が感染し、全世界で5000万人以上の人が死亡者を出した末に、集団免疫が成立し収束した。

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さて1年半以上続いている新型コロナは、どういう終焉を迎えるのか。次が考えられる。

(1) スペイン風邪のように、集団免疫が成立する。
(2) 集団免疫は成立せず、社会全体で永遠にワクチンを打ち続ける。
(3) ワクチンに大きな効果が無くなり、収束しないまま死者が多く出続ける状況を甘受する。

(1)の集団免疫の成立のためには、実効再生産数が高いのでスペイン風邪より遥に多くの感染者またはワクチン接種者が必要とされるらしい。

ここで大きな要素となるのは、ウイルスの変異だろう。新型コロナはインフルエンザの一種であるスペイン風邪に比較すると変異は少ないとの事だが、それでも変異の多様性と速度が大き過ぎると感染またはワクチン接種によって得た免疫が適合しなくなり、(2)の永遠にワクチン(変異に対応した新型)を打ち続ける世界か、(3)の多くの死者を出し続ける世界が待っている。

イギリス在住の免疫学者・医師、小野昌弘氏は、7/20 (火) 付Yahoo! 記事「英の封鎖解除・オリンピック〜変異株の競争」で次のように書いている。

「ウイルスが流行をひろげてより多くの人の中で自分を複製して増えていけばいくほど、ウイルスが変異を獲得する機会は増える。さらに社会で大流行がおきてしまうと、重症の疾患のため免疫がうまく働かないような人にまで感染する機会もふえる。このような人のなかでは、ウイルスがとくに長期間にわたって感染して多くの複製を繰り返しながら多数の変異を蓄積することが知られている。このように、コロナの流行を広げることは、犠牲者を増やすのみならず、新たな変異株を作り出すことにもつながる。」

小野氏はこのような懸念を示しているが、一般的には一方でウイルスの自然変異では感染力は高まるが毒性は弱まる趨勢があると言われている。

また小野氏は、懐疑を伴いながらも下記のようにワクチン接種に希望を抱いている。

「それでも現在主流のワクチンが二回接種すればデルタ株に対してでも9割程度の相当高い重症化回避効果があることは重要で、コロナのパンデミックから抜け出すための大きな希望である。」

しかし、ワクチンによって耐性菌のような強毒化した変異株の出現可能性が指摘され始めており、一説には南米を中心に流行を広め始めているラムダ株がそうであるとも言われている。そうすると前述(3)のワクチンに大きな効果が無いどころか逆効果となり収束ではなく拡散となってしまう。

なお、日本を含めた先進国で使用しているファイザー製、モデルナ製等のmRNAワクチンやアストラゼネカ製等のウイルスベクターワクチンは遺伝子工学上の新技術を使っており治験が完了しておらず長期的リスクが未知数である。

一方中国が現在使用すると共にワクチン外交で友好国に供給しているシノファーム製やシノバック製の不活化ワクチンは、インフルエンザと同様の従来技術を用いており、インフルワクチン程度にしか効かないとも言われるが、他に有害な成分が加わっていない限りは甚大な副作用リスクは低いものである。

このため、もしmRNAワクチン、ウイルスベクターワクチンで広範で甚大な長期的副作用が発生した場合には、相対的に中国の独り勝ちとなり、世界秩序と各国の安全保障上、最大の脅威となるだろう。

結局、我々は社会としてワクチン接種を促進すべきなのか? それとも一旦立ち止まってその速度を緩めるべきなのか? 現時点では前者の意見が世界的にも圧倒的に優勢であり、ワクチン無しでの集団免疫は不可能との説もある。

しかしながら日本は、奇遇にも中国等と同じ東アジアにあり、幸いな事に恐らくは人種的要素と各種感染症の免疫履歴に由来する「ファクターX」により重症者、死者数等が低く抑えられている。このため現在性善説に基づいて体を成していない水際対策と著しく遅れている医療キャパの拡充をまともに図れば、緊急事態宣言等の営業制限や行動制限の発令を最小限に抑えつつ、コロナをコントロール下に置くための下記不等式をある程度の余裕をもって成り立たせる事は可能だろう。

(感染者、発症者、重症者)/ それぞれの医療キャパ < 1 

なお世界各国に於いても仮にワクチンに長期的副作用リスクが無くとも、前述のワクチン耐性強毒化変異種の発生懸念もあるため、現時点ではワクチン接種は高齢者や既往症者のようなコロナ重症ハイリスク者に対する緊急使用という位置付けに留めるのが適当なのではないか。

そして食生活や生活習慣の改善により個々人の自然な免疫力を高める地道な取り組み(例えば魚や緑茶等の摂取、屋外に出ての適度な日光浴や軽い運動がよいと言われる)を中心に、使用許可や正式認可が進みつつある各種治療薬も適切に使いながら、なおワクチンに偏重しない集団免疫形成を模索する戦術を採るのが、一見迂遠ながら筆者にはリスク分散の観点からは望ましいと思われる。