越境ワーカー、落とし穴はないのか?

越境ワーカー、まるで出稼ぎ労働者のような響きですが実はトレンディーな働き方の一つとなっています。基本のパタンはAという国に住みながらBという国の会社で雇用されるパタンです。アメリカや英国ではその流れが出始めているとされます。これもオンラインによる業務の推進ができるようになったためで、世界どこにいても仕事が出来る時代がその背景です。かつて「のまど族」(遊牧民)とも言われた人たちです。

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オーストラリアのオンラインワーカーの斡旋業者、フリーランサー社の登録者数は6月末で5300万人を超えており、コロナで登録者数が3割増えた(日経)とあります。世界には6億人の潜在労働者数がいるとあります。

確かに最近、「お宅の会社のウェブサイトをもっと良いものにしませんか?」的なセールスのEメールや電話が増えてきています。ウェブサイトは何処にいても作れるという意味ではオンラインワーカーにはうってつけなのですが、会社やその製品、ウェブに求めるものなどをじっくり理解しないと本当のウェブなど作れるわけありません。またウェブの表層であるデザインだけやるのか、オンラインショッピングまで含めたウェブデベロップメントまでやってくれるのか、価格や相手の言い分で載せられると痛い目に合うかもしれません。

一方、きちんとした雇用者がいて、その枠組みで仕事をしている人たちはよいかもしれません。多分、雇用形態は成功報酬型の契約になっているものが多いはずで、煩わしい労働時間に管理される点からは解放されます。一方、成果品が十分でなければ次の契約はない、ということですから労働者側の雇用の保証はかなり不安定になるでしょう。もちろん、その人が専門職ではなく、マネージメントの圧倒的な力量を持つのであれば逆に引く手あまたの状況になりうることもあります。とすれば厳しい選別がそこで行われることになります。

税金の問題がどうなっているのか、ここも難しいところです。個人所得税はその人が住んでいる国に第一課税権があります。そして多くの国で取り入れられているのが全世界所得への課税ですので例えばA国に住んでいてB国の仕事をして10万円稼いだとすれば当該所得はA国に課税所得として申告する必要があります。

ただし、ここからが問題。越境ワーカーが個人事業主でB国の顧客からオンラインにて支払いを受け、特にそれが自分の銀行口座を介さない方法で入金する場合、当該国の税務当局が把握するのが非常に難しくなるでしょう。とすれば正直者は馬鹿を見るではないですが、わざわざ納税申告をしない可能性があります。

もう一つは例えば正規の労働ビザではなく、ビジタービザで入国し、そこでオンライン業務を行い、税務申告時期に他国に出国した場合、未払い税金のまま逃げることになります。

更には「183日ルール」です。365日の半分は182.5日、つまり183日とは年間の過半数の日数でその間、当該国で滞在することにより当該国に課税権が生じるという考え方があります。カナダにも日本にもありましたが、先進国ではこのルール適用は20年ぐらい前から改変され始め、「実質ルール」が適用されています。というのは3カ国以上に居住地がある富裕者層の脱税が横行し、所得税を一銭も払わないことが一部の世界で流行したことがあるからです。

個人的にはリモートワークにはいくつかのハードルがあるように思えます。他国の仕事を受注する場合、その支払いがきちんとなされるか、代金の未払いの際、どう対応するか、非常に難しい問題を抱えます。タダ働きのリスクは考えるべきでしょう。

二番目に当人が居住地を転々とする場合、ビザの問題が出ると思います。国によってビザの規定が違うのですが、その人が当該国の人や会社から稼いでいるのではなく、国外からの収入だから就労ビザはいらないという考え方をする国もあるようです。ただ、無制限にビジタービザを認める国はないでしょう。つまりいつか不法滞在となるので本当ののまど族になりかねないリスクはあります。

三番目に社会に所属するという意味で長期的な「のまど族」は出来ないとみています。それは仕事が安定的にあるかどうかという問題と共に基本的にはその日暮らしであり、社会保障が何もない状態にあり腰掛けなのです。会計的に言えば損益計算書だけで生きていてバランスシートがない状態ですね。

病気や事故になった時、あるいは仕事がまったくなくなった時の保障はありません。また当該国での社会への参加という観点は低く、その人がそこに居住することに国家になんらメリットを生まないため、いつ、どんな制裁発動があるかわからないのです。

最後に、税務当局や入国管理の当局も全世界ベースでオンライン化とルールの共通化が猛烈な勢いで進んでいます。当然ブラックリストもあるし、国際間をまたぐお金のやり取りには厳しい監視の目があります。よって正規の越境ワーカーならいざ知らず、ちょいとしたノリではまずうまくいかず、不法、不正なものに手出しするのがオチになる点は要注意なのではないかと思います。

私なら越境ビジネスはビジネスポートフォリオのごく一部、という考え方が健全ではないかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月29日の記事より転載させていただきました。