2050年の排出量実質ゼロ① 〜 250年続いた社会の大変革 --- 田中 雄三

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1. 250年続いた社会の変革

温暖化は確かに進行していると考えます。また、限りある化石燃料をいつまでも使い続けることはできませんから、再生可能エネルギーへの転換が必要と思います。しかし、CO2排出量実質ゼロは、産業革命以降250年続いた社会を変革する極めて困難な課題です。

産業革命が始まる頃10億人以下と推定される世界の人口は、2020年に78億人になったと推計されています。マルサスは「人口論」で、「人口は制限されなければ幾何級数的に増加するが生活資源(食糧)は算術級数的にしか増加しないので、生活資源は必ず不足する」と主張しました。しかし、化学肥料の開発と普及は、マルサスの予測以上に食糧生産を増大させました。また、産業革命以降の石炭、石油、天然ガス、原子力の導入と普及によるエネルギー供給の増加が、人口増加を支えたことは確実です。

2050年にCO2排出量実質ゼロとするには、化石燃料の消費を10分の1規模に縮小することが必要です。250年にわたり化石燃料が支えた社会を、僅か30年で太陽光や風力発電の再生可能エネルギーに転換することになります。

現代社会でエネルギーは、食糧と同じくらい不可欠なものです。食糧生産ですらエネルギーが無ければ成り立ちません。エネルギーの安定供給が実現しなければ、世界78億人の人口を維持できないことになります。

2. 人口1人当たりの排出量

2021年4月気候変動サミットが開催され40か国の首脳が参加しました。一部の国は、2030年までの温室効果ガス(GHG)削減目標の大幅引き上げを表明しました。日本も2030年の削減目標を46%に引き上げました。根拠無く決められた46%に関し、実行不可能との意見がありました。一方、米国が50%削減を表明したため、マスコミや環境関係者から、日本の削減目標は不十分との指摘も出ました。

基準年の時点で排出量が多い国と少ない国があるのですから、削減率はあまり意味を持ちません。排出量実質ゼロのためには、絶対値を比較すべきです。各国の排出量を評価する指標として、下記が議論されています。

  • 人口1人当たり排出量
  • 人口1人当たり累積排出量
  • GDP当たりの排出量
  • GHGを1トン削減する費用

GDP当たりの排出量は、各国の経済活動の脱炭素化の度合を示すものです。一方、GHGを1トン削減する費用は、GHG排出削減の経済的負担を公平にするためや、経済負担が少ない国や産業から優先的にGHG削減を行うためなどに用いられます。GHG削減に係わる国情の違いを考慮できる合理性がありますが、算定が複雑なため指標の透明性に難点があります。人口1人当たり累積排出量は、正確な値の算定が難しい上、実質ゼロを推進するインセンティブが乏しいように思います。

単純明快なのは人口1人当たりのGHG排出量です。豊かな国も貧しい国も、1人当たり同量のGHG排出枠を保有すべきという平等の原則に基づく指標です。この指標を基本に、2次的評価因子として各国の気候風土の違い、エネルギー多消費産業の多さ、再生可能エネルギー賦存量、累積排出量などを考慮して評価すれば、各国のGHG排出量の多さや排出削減の遅れを的確に示すことができます。

3. 気候変動サミット

気候変動サミットを契機に、米国は2030年のGHG削減目標を2005年比で50~52%削減すると発表し、カナダは同じく2005年比で40~45%の削減目標に引き上げました。

英国の2030年のGHG削減目標は1990年比で68%でしたが、2035年までにCO2排出量を78%削減すると表明しました。ドイツのGHG削減目標は、2020年12月にEU加盟国が合意した1990年比で55%でしたが、2021年5月にCO2削減目標を65%に引き上げました。

ロシアは2020年11月に署名された大統領令で「2030年までにGHG排出量を1990年比で70%のレベルに削減する」と規定しています。中国は2020年9月の国連総会で、「CO2排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを目指す」と述べています。

インドは2020年代に人口で中国を抜き、排出量でも1、2位を争うことになることが確実です。2020年11月に、「2030年よりかなり前にGDP当たりの排出量(CO2か?)を35%削減する」と環境相が述べましたが、今回、2030年までのCO2削減で対米協力すると述べただけで、具体的な削減目標は示しませんでした。

表-1に、GHG排出量が多い国の2030年の削減目標を示しました。各国の上段はGHG、下段はCO2に対する値です。排出量実績はUNFCCC(気候変動枠組条約)のデータで、森林等の吸収分を含まない(without LULUCF)値です。UNFCCCのデータベースは、各国が提出したデータをそのまま掲載していると注記されており、頻繁に修正されているようで、GHG排出量の算定が簡単でないことが窺われます。なお、細かいことですが、この報告ではどの国のデータも間接CO2を含まないGHG排出量を用いました。

各国の2030年の人口は、2020年の国連推計値で近似しました。GHG削減目標のみを表明している国は、同じ削減率でCO2排出量も示しました。

下記の図-1に、2030年目標の各国の1人当たりのGHG排出量とCO2排出量を示しました。カナダは、米国の排出量に合わせた削減目標を設定したことが明瞭に分かります。一方、日本の1人当たり排出量は、米国よりかなり少ない値です。ドイツに近い値ですから、GHG排出削減に関し、一部の人が言う日本は周回遅れとの批判は当たらないように思います。なお後述するように、排出削減が容易な国と大変な国があることを認識する必要があります。

排出削減に頑張っているのは英国です。但し、目標ですから実行されるかは分かりません。GHG排出削減に熱心なのはEUであり、その削減実績を次稿で紹介します。

次回:「2050年の排出量実質ゼロ②」に続く

田中 雄三
早稲田大学機械工学科、修士。1970年に鉄鋼会社に入社、エンジニアリング部門で、主にエネルギー分野での設計業務、技術開発に従事。本原稿詳細は、筆者ウェブページと、アマゾンkindle版「常識的に考える日本の温暖化防止の長期戦略」をご覧下さい。