2050年の排出量実質ゼロ② 〜 EUのGHG排出実績と日本 --- 田中 雄三

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4.  EUのGHG排出実績

2030年までに実行されるか不確かな目標よりも、先ず、過去のGHG削減実績を見るべきでしょう。本項では主にEU加盟国の排出データを紹介します。図-2には、EU-27に英国、ノルウェー、スイス、トルコと比較対象として日本を加え、2018年の人口1人当りのGHG排出量を示しました。UNFCCCのデータで、without LULUCFの値です。日本は排出量が多い方に位置しています。関連情報を追加した上で、主な国についてコメントを後記します。

 

図-3~図-6に同様に1人当たりの排出量で、1990年から2018年までの推移を示しました。なお、人口データは、2018年の値で近似しました。以下に示すGHG排出量は、森林等の吸収分を考慮した(with LULUCF)値なので注意してください。排出量実質ゼロとは、排出量と森林等の吸収量(LULUCF)やCO2の回収貯留(CCUS)を相殺してゼロという意味のため、with LULUCFの値にしました。

図-3は、EU-27と日本のGHG排出量の推移です。1990年時点で、日本の排出量はEUより僅かに少なかったのですが、その後、排出削減は進まず、EUに逆転されました。EUの排出削減は、それほど顕著ではありませんが、2018年の排出量は基準年の76%になっています。

京都規定書のGHG削減は、1990年の排出量に対し、2008年から2012年の5年間の平均削減目標を規定しています。日本の削減目標は6%でしたが、排出量は基準年に対し1.4%増加しました。森林等吸収源による吸収量の-3.9%と、京都メカニズムクレジットの取得量の-5.9%により、削減目標をなんとか達成しました。

なお、京都メカニズムクレジットとは、他国での排出削減プロジェクトの実施による排出削減量等を、自国の削減目標の達成に用いることができる制度です。同クレジット取得分のうち-1.5%は政府取得分で、残りの-4.4%は電気事業連合会が取得したものです。政府分クレジット取得には総額約1,500億円の購入予算を要しており、同じ比率で考えると、総クレジットの取得に6,000億円くらいの費用が掛かったものと推測されます。日本は6%のGHG削減でも、随分苦労したことが分かります。

次に、各国の排出量の推移を見ることにします。4つのパターンに分けてみました。図-4は、ほぼ一貫して排出量が減少した国です。但し、図-2に示したように、ベルギー、ドイツ、オランダは、2018年の排出量が日本より多い値です。

図-5は逆に2018年の排出量が1990年より増加した国です。経済成長によりエネルギー消費が増加し、GHG排出量が増加した国が多いと思います。京都議定書で、EU全体の削減目標は8%でしたが、EU内部では別途に加盟国の削減目標を設定しており、排出量の増加を許容する加盟国もありました。

図-6は、1990年代前半にGHG排出量が急速に低減したが、その後顕著な低減が見られない国です。何れも東欧諸国で、旧ソ連圏の時代に省エネが遅れていた国々です。京都議定書によるGHG削減のため、最初はGHG排出低減が急速に進みました。概して1人当りのGDPが低い国で、政策の重点が豊かさに置かれたためと思われ、その後は排出低減が進まなかった国です。

図-7は残りの国々で、ほとんどがGHGの排出低減が僅かだった国で、日本もそこに含まれています。

以上の実績からはEU加盟国の全てが、GHG削減にそれほど熱心でないことが分かります。

次回:「2050年の排出量実質ゼロ③」に続く

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田中 雄三
早稲田大学機械工学科、修士。1970年に鉄鋼会社に入社、エンジニアリング部門で、主にエネルギー分野での設計業務、技術開発に従事。本原稿詳細は、筆者ウェブページと、アマゾンkindle版「常識的に考える日本の温暖化防止の長期戦略」をご覧下さい。