少ないコロナ死者数に首相が言及しない不思議

質問しない記者も不勉強

新型コロナ対策のために、緊急事態宣言の対象地域を拡大することについて、菅首相は30日、記者会見をしました。死者の減少に触れればいいのに、感染者数の拡大ばかり強調するため、国民の不安は増しています。

記者たちもそのことを質せばいいのに、「医療崩壊して救うべき命を救えなくなったら、首相は辞職するのか」など、追及のポイントは的が外れています。首相も首相、記者も記者です。がっかりしました。

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首相は開口一番、「全国の新規感染者は1万人を超え、東京の感染者は3300人に上っている。これまでに経験したことがないスピードで感染が拡大している」と、発言しました。

「これまでに経験したことがないスピード」と強調すると、国民の心理はますます委縮してしまいます。「若い世代にも感染が急拡大し、このままだと病床がひっ迫する恐れがある」とも。

専門家会議の尾身会長も「医療にひっ迫が生じており、最も危機的な状況にある」「感染がさらに拡大する傾向は間違いない」と発言し、国民の恐怖心を煽り続けています。

新聞、テレビの報道も、国民の心理を委縮させる側に立っています。複眼的な思考が必要なのに、視野の狭い報道ばかり目につきます。

ネット論壇では、「新型コロナによる死者は全国で9人、東京で3人(30日)と少ない。人口10万人当たりで計算すると、1日5人程度で、G7(先進主要国)で最も少ない」「感染者数の増加ばかりが強調され、国民心理に誤った印象を与えている」などの指摘が登場しています。

感染者数についても「新型コロナは感染症法の2類にされ、最も危険な1類(エボラ出血熱など)に次ぐ扱いにしている。厳しい検査、入院勧告、隔離要求などを義務づけているので、感染力の強いインド型が広がると、それこそ前例のない速度で、把握されるで感染者が増える」などとも。

「普通のインフルエンザ並みの5類に格下げすべきだ。そうしたほうが実態が正しく反映される」と。季節性インフルエンザでも「多い時は年間の死者1万人、感染者数は週200万人。それと比べると、新型コロナに対する警戒心は異常なレベル」とも。欧米の基準で何事も考えているのでしょう。

新聞論調はというと、「首相、知事は国民の行動変容につながるメッセージを出さなければならない」(朝日新聞社説)などとあります。どうなのでしょうか。求められているのは、「国民の行動変容」ではなく、「首相、閣僚、都知事らの行動変容」なのです。

正しく「コロナ禍を認識して、国民に伝達する「行動変容」が必要なのです。メディアも記者会見などで首相の政治責任を追及するのは、後でもよいのです。メディアにも「行動変容」が必要です。

読売は「感染拡大と五輪開催を結びつける意見がある。間違いだ」(社説)と、主張しています。どうなのでしょうか。観客動員のために、無理に4連休を設け、その後、無観客にしましたから、国民は「旅行にでも行くか」となり、感染を広げた。その意味では、この二つは結びつく。

「緊急事態宣言という空襲警報下で、大運動会(五輪のこと)」をやれば、国民は「緊急事態といっても、深刻な事態ではあるまい」と判断し、政府、自治体が求める自粛措置は軽視される。その結果、「感染の急拡大と五輪」は結びつく。政府がそう誘導しているのです。

ですから、ネット論壇の意見のように「特に変異株によるコロナは、日本の場合、普通のインフルエンザと大差がないと考えたほうがよい。死者数も海外に比べると、非常に少ない。だから五輪は中止する必要はない」と、五輪をやるなら、首相は率直に説明すべきなのです。

そうでも言っておけば、菅政権がやっていることの筋は通る。「感染拡大は深刻、五輪は安全安心でやれる」はちぐはぐで、筋が通らない。菅政権が何を考えているか分からず、国民不信はそこから生まれているのです。

記者会見で首相は「感染が急拡大している若い世代にワクチン接種を広げていく」と、強調しました。どうなのでしょうか。ワクチン接種では、高齢者より現役世代を優先すべきでした。

若い現役世代から先に接種し、免疫力をつけ働いてもらう。さらに接種証明のカードを示せば、勤め先の会社、旅館、飲食店、居酒屋などに自由に出入りできる。そうしておけば、経済は回る。順序が逆でした。

もっとも相当な高齢者、基礎疾患のある高齢者は優先する必要はあります。そうでない高齢者の接種は現役世代の後でよかった。そうしておけば「若い世代に急速に感染拡大」などと発言しなくてすみました。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。