神は原初において完全なるものを一時に創造し、それで創造は終了したのである。世界は神の知性のもとでは完全であり、完全なるが故に変化することはない。完全な調和、完全な均衡のもとでは、完全に静止する。世界が変化しているようにみえるのは、人間の知性に限界があるからである。
神は人間を不完全なものとして創造した。故に、人間社会は、ありとあらゆる不完全なものに満ちていて、それらは、一方では、偽、悪、醜、悲、苦であるにしても、他方では、真、善、美、喜、楽でもある。そして、全ての不完全なるものは、神の摂理のもとで完全なるものとして予定調和していて、人類の最後の日に、その調和が実現するのである。
完全なるものは論理的に完結している。従って、神、即ち完全なる知性は一を知れば、その余の全てを瞬時に知ることになる。不完全なる人間の知性といえども、論理的な体系の一端を知れば、演繹に演繹を重ねる努力の結果、体系の全体を把握することができる。
実際、数学や自然科学の体系は、そのようなものとして構想され、そのようなものとして発展してきた。経済学、歴史学、社会学、法律学などの社会科学も、人間の不完全で非論理的な行動のなかに隠された論理を発見する努力として構想され、そのようなものとして発展してきた。
しかし、人間が完全を志向しても、神ならざる人間は、完全には到達できない。人類最後の日に完全に最接近するとしても、完全とは更なる変化のあり得ない状態であり、完全な静止であり、死ぬほどの退屈であり、死の静寂でしかないのだから、その先に人間的意味は全くない。
むしろ、神は人間を不完全なものとして創造したこと、その意義が重要である。不完全なるが故に躍動があり、悪の裏に善があり、不幸の裏に幸福があり、悲しみの裏に喜びがあり、矛盾の裏に論理があり、醜の裏に美がある。そして、人間ならではの創造がある。人間の創造は、神が予定するものだから、真の創造ではないが、神の予定を知ることのない不完全な人間にとっては、創造なのである。
森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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