オリンピックも佳境を迎えています。先日ある人に「北尾さん、勝負勘を磨くにはどうすれば良いですか?」と尋ねられました。私は「『易経』に3つ“キ”を押さえることが、やはり一番大事ではないかと思う」と答えました。勝負勘を磨くというか勝機を掴む上で、之はスポーツに限った話ではありません。“Timing is everything.”と言われますが、商取引でも選挙でも株式投資でも何でも全て同じです。「四書五経」の一つ『易経』は此の3つ「キ」を、次のように説明しています。
第一に「幾」、兆しや機微という意味です。物事が動き変化する前には、必ず機微があらわれます。第二に「機」、勘所・ツボのことです。お灸して貰ったとしても、ツボに当たらねば何も効かず有害無益なだけですが、ツボに当たれば経絡が反応し様々な病に効きます。そして第三に「期」、物事が熟し満ちることを意味し言わばそのタイミングが大事だということです。孟子の言葉「天の時は地の利に如(し)かず地の利は人の和に如かず」の内「天の時」とは、正に此のタイミングのことであります。
此の3つの「キ」を知ることが指導者には大変重要で、古来この『易経』が君子の帝王学と言われてきた所以もここにあります。タイミングが来ている時に愚図愚図していたら勝機は逃げて行くわけですし、ツボをぴちっと押さえないと之また勝負に勝てることは無いわけです。上記の通り勝機を掴むとは、結局そういうことではないかと思います。
それからもう一つ、現況あるアスリートが一流と称されるか否かは、その殆どが才能と努力の結果です。そもそも才能が無い人は、どれだけ努力を重ねても基本オリンピックで優勝するようなり得ません。やはりオリンピック金メダリストには、それ相応の天賦の才というものがあるわけです。
例えば、先々月16日に現役引退を表明された体操の白井健三さんも、「両親が元体操選手で体操クラブを経営し、兄2人も体操をやっていた”体操一家”」に育ち、3歳から体操を始められたようです。彼の持って生まれた才、その開発を援助した父母等、そして彼の努力と相俟って、5年前のリオ金を含め数々の偉業を成し遂げられました。
之は、スポーツ以外にも通ずるところです。孔子は「命(めい)を知らざれば以て君子たること無きなり」(『論語』尭曰第二十の五)と言っています。己にどういう素質・能力があり、之を如何に開拓し自分をつくって行くかを学ぶのが、「命を知る」ということです。勿論、人間どういう才をどれだけ有するか見極めるは難しく、そう簡単に分からぬことだとは思います。
孔子は弟子の冉求(ぜんきゅう)に対し、「力足らざる者は中道にして廃す。今(いま)汝(なんじ)は画(かぎ)れり…力が足りない者は、中途半端で止めてしまうものだ。今のお前は初めから見切りをつけているではないか」(『論語』雍也第六の十二)と怒っています。我々も此の「画れり」を排し「命を知る」努力を継続することが、極めて大事だと思います。
編集部より:この記事は、北尾吉孝氏のブログ「北尾吉孝日記」2021年8月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。