共産主義者のカスティージョ氏が大統領に就任したことによって、キューバやベネズエラのような国になるのではないかと不安視されている。
テロ組織を擁護する人物が首相に
政治経験の全くないペルーの新大統領となったペドロ・カスティージョ(Pedro Castillo)氏が7月29日、政治家としての経験が非常に浅く、しかも思想的に過激派のギド・ベリード(Guido Bellido)氏を首相に任命した。
べリード氏を首相に選らんだことに問題をもたらすのは、彼がテロ組織センデロ・ルミノソを擁護したとして提訴されていることだ。また、コカの葉を消費することを奨励したり、キューバが独裁国家であることを否定している。民主主義国家として受けれられないこれらの姿勢を表明して来た人物がペルーの首相になったのである。
カスティージョ氏がベリード氏を首相に任命した背景には、この二人が属している政党「自由のペルー(Perú Libre)」の創設者でマルクス・レーニング主義者ヴラジミル・セロン(Vladimir Cerrón)氏が最後まで執拗にベリード氏の首相としての指名をカスティージョ氏に要求したからであった。
カスティージョ大統領は操り人形
セロン氏のカスティージョ新大統領への影響力の強さから一部専門家の間では後者は前者の操り人形だという意見もある。また、ペルーの経済がこれまで30年以上市場経済を優先して来たのが、ここに来て一挙に社会主義に転じるのではないかと懸念もされている。しかも、セロン氏はキューバのフィデル・カストロ氏やベネズエラのチャベス前大統領とマドゥロ現大統領は国民から支持されて指導者になったと考えている人物だ。
実際、財務経済相に就任が予定されていた穏健派のペドロ・フランケ氏が閣僚の宣誓就任式の前にそれが行われた国営大劇場から姿を消すという事態も起きた。テロ擁護派のべリード氏が首相になるからであった。
フランケ氏は大統領決戦投票キャンペーン中からカスティージョ氏が勝利した場合に財務経済相として入閣するということで国内及び国外の経済界に左派革命は起きないとして安心感を与えていた。
フランケ氏はペルーカトリック大学の経済学部の教授で左派穏健派である。これまでもペルーの政治家のアドバイザーも務めた経験ももっている。
同様に、自由のペルーの法的関係の顧問を務めていたアニバル・トッレス氏も法務相のポストが用意されていたが、べリード氏が首相ではどのような政権になるか不安があるとして法相になることを辞退した。ということで、閣僚の宣誓就任式が行なわれた時には16閣僚が就任したが、財務経済相と法務相のポストは空席となっていた。
その翌日、問題のべリード氏自身が両氏が入閣することに賛成を表明したことで、それぞれ予定されていたポストに就任した。しかし、このようなハプニングが起きるということ事態がベリード氏の首相としての就任に疑問がもたれているかということを脆に証明したことになる。
野党は首相の解任を要求
カスティージョ氏が大統領になればクーデターを遂行すべきだという軍部の動きもあった中で、同氏の勝利を肯定的に受け止めていたサガスティー前大統領の「モラド党」でさえもがべリード氏の首相就任を否定して「この政府は信任されるべきではない」と表明し、「民主主義、人権や汚職とテロとの戦いを信じない人物が政府を率いるべきではない」と述べたのである。更に、同党は「ベリード氏の任命はペルーの政治の不安定と無秩序を生むことになる」と付言した。穏健左派の「新しいペルー党」のルス・ルケ氏はRPPによるインタビューの中で「理想的なのは、信頼と合意を生み出すことができる人物が選ばれるべきであった」と語った。(「BBCムンド」7月30日付から引用)。
政党アプリスタのホルヘ・デル・カスティージョ元首相は「この政府の半分の閣僚はセンデロ・ルミノソで残り半分はトゥパク・アマルに繋がる人物だ」と評価した。トゥパク・アマルはフジモリ元大統領の政権時に在日本大使館を占拠した革命運動組織だ。
また、ケイコ・フジモリ氏のアドバイザーを務めて来たルールデス・フローレス弁護士も「ペドロ・カスティージョ氏が提案しようとしている制憲議会の設立を阻止して民主主義の統一を守るために議会や住民が団結していなかればならない」と表明した。(電子紙「「インフォバエ」8月2日付から引用)。
与党となる自由のペルーの党内でさえもべリード氏を首相として選任したことに疑問が持たれている。同党のホルヘ・コアイラ議員は政治的な観点から見て「ペドロ・カスティージョ大統領がそのポストを同氏に指名したことは都合の良いものではなかった」「ペドロ・カスティージョ大統領は彼を取り囲む人たちを良く吟味すべきであった。というのも、国の統治能力が求められており、平和であって、現在国で起きている政治的そして経済的な状況が良くなることが求められているからだ」「我々はペドロ・カスティージョ先生に誰が政府の閣僚を構成し、誰が首相になるのかこれまで尋ねて来た。しかし、それを明確にはしてくれなかった」とRPPに語った。電子紙「RPP」7月29日付から引用)。
外相はフィデル・カストロのファン
今回の首相の選任ほどには問題視されていないが、同じく不審を買っているのは外相に85歳の弁護士で社会学博士のヘクトル・ベハル氏を任命したことである。というのも、同氏は元ゲリラ戦闘員でキューバのフィデル・カストロ氏のファンだった人物だからである。27歳の時にキューバに渡りフィデル・カストロやチェ・ゲバラの両氏とも親交を結ぶ機会を得たという。これが意味するものは、ペルーの今後の外交はこれまでの右寄りの外交から現在のボリビア、アルゼンチン、メキシコなどの左寄りの外交に方向転換して行くことを意味するものである。実際、カスティージョ大統領の就任式にベネズエラのオルヘ・アレアサ外相が出席した。それが意味するものは、これまでのグアイドー暫定大統領への支持からペルーはマドゥロ大統領に接近する方向を選ぶことになるということだ。
ペルー大統領の人気は5年。カスティージョ氏の大統領就任演説では1993年にフジモリ元大統領が発布した憲法の改正をしたい意向も表明している。それに対して、フエルサ・ポプラルのケイコ・フジモリ党首は共産主義者による憲法改正には断然強固な壁となってそれを阻止することを既に表明している。
ペルーはこれまでの市場経済の優先から統制経済に移行する危険性がある
ペルーの共和国議会は一院制で現在130議席で構成されている。自由のペルーは僅か37議席しかない。しかし、他のどの政党も少数政党であるが故に議会で勢力をつけるには他政党との連合が必要である。首相の所信表明は専任されてから30日以内とされている。野党はベリード氏が議会で所信表明をする前からすでに彼の辞任を要求している。
ペルーは市場経済を導入したこの30年余りで国民一人当たりの所得は90年代の5700ドルから1万4000ドルと大きな成長を遂げている。富の分配が地方まで均等に実施されなかったという問題はある。そして今、共産主義・レーニン主義者のカスティージョ大統領は地方にまで富が行き渡るように改革しようと計画している。