暑い夏に何を聴くか、様々な選択肢があるかと思いますが、涼を求めて聴くなら、1960年代中頃に展開されたいわゆる【新主流派ジャズ new mainstream jazz】の作品が絶対お薦めです!
モード・ジャズを更に極めた洗練されたこの音楽スタイルは、バップやハードバップのような、ときに暑苦しくなりがちなコードを追う必要がなく、またフリー・ジャズのような、ときに暑苦しくなりがちな乱れた状態に晒されることもなく、ひたすらクールに展開されるスケールとリズムを気の趣くままに聴くことができます。
つまり、新主流派のジャズは、私が考えるに、秩序を強制されることもなく、無秩序に陥ることもない、バランスが取れた抜群のエントロピーを体感できるスタイルなのです。そして何よりもこの音楽スタイルを実現したは、洗練された技術とアイデアをもつ質の高いプレイヤーであり、自ずと曲調も美しくなります。
そんな新主流派ジャズの原点ともいえるのが、マイルス・デイヴィスのリーダー作品『Miles Smiles』(1967)です。まさにこのアルバムのパーソネルは、新主流派のメイン・キャストともいえるクインテットであり、ロン・カーター(ベース)とトニー・ウィリアムス(ドラムス)の最強のリズムのデュオに帝王マイルスのトランペットと黒魔術師ウェイン・ショーターのテナー・サックス、ハービー・ハンコックのリード楽器としてのピアノが乗り回す展開です。
Miles Davis – Trumpet
Wayne Shorter – Tenor saxophone
Herbie Hancock – Piano
Ron Carter – Double bass
Tony Williams – Drums
1. Orbits
2. Circle
3. Footprints
4. Dolores
5. Freedom Jazz Dance
6. Ginger Bread Boy
1.はこのアルバムのイントロダクション的な作品です。ドラムス(ウィリアムス)とベース(カーター)が完成された最強のスウィングをソリストに提供し、ソリスト(マイルス、ショーター、ハンコック)が怪演で答えます。ピアノのハンコックはバッキングすることなく、和音を使わないリード楽器としてプレイします。究極に洗練された新主流派のフォーマットのプロトタイプ的作品です。
2では、 マイルス、ショーターと続くソロでバッキングを務めるハンコックが自然にソロへと移行し、美しく透き通った幻想的な世界に導いてくれます。そこにマイルスが再登場し、情感を投入して結びます。
3.は新主流派の魅力が凝縮された最高にスリリングなショーターの作品です。最高の聴きどころは、気の利いたダブルタイム(倍テン)をアクセントに、終始変化に富んだドラムプレイをいかんなく発揮するトニー・ウィリアムスのドラムプレイです。まずはドラムスだけに専念して1回聴いた後で、そのドラムプレイに各プレイヤーがどのようにフレーズを被せているかを聴くとより愉しめると思います。これぞ最高のジャズの名演の一つです。
4.もドラムスとベースのスウィングが素晴らしいです。このリズムを解釈してフレーズを創るマイルス、ショーター、ハンコックも見事です。
5.はハンコックがバッキングに回り、マイルス、ショーターとのインタ—プレイを展開した後、ソロに回って究極のピアノトリオの怪演を聴かせてくれます。
6.マイルスとショーターのアンサンブルが印象的な作品です。最後にこのアルバムを彩り続けたベースとドラムスの偉大なインタ—プレイで締めます。
このアルバムの最高殊勲選手はトニー・ウィリアムス、最優秀助演男優賞がロン・カーター、そしてマイルス、ショーター、ハンコックは最優秀主演男優賞を分け合っていると考えます。まぁ結局は、全員が価値ある素晴らしいクインテットであるということです(笑)
編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2021年8月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。