ワクチンは日本国民の命を既に英国並みに守っています

6月末、日本のワクチン接種が順調に進み出した頃、ワクチン接種後の日本の致死率について定量的に分析した上で、陽性者数−死者数関係のパスを予測しました[記事]

■図-1 日本の陽性者数−死者数関係の予測パス(前回記事)

それから1カ月半の間、世界屈指のスピードでワクチン接種が行われた日本ですが、その効果がどの程度あるかについてはほとんど分析されていません。この記事では、前回記事の予測を検証しながら、今現在の日本のワクチン接種の効果がどのくらいあるかを分析してみたいと思います。

英国の致死率

前回の分析では、英国のコロナ陽性者数と死者数の関係の時間変動を検討することで各段階(第1波〜第4波)における致死率を求めました(図-2)。なお、英国では陽性者数より16日遅れて死者数が変化する(ラグ=16日)ので、16日ずらした値の関係をプロットしています。この時、致死率は、陽性者数と死者数の関係を表す直線(黄色の破線)の傾きということになります。

図-2を見るとわかるように、デルタ株が99%を占め、かつワクチンの1回以上の接種率が60%を超えた英国の第4波(イマココの表示)では劇的に致死率が低下(致死率=0.21%)していることが判明しました。

1カ月半経過した今、英国と日本の状況がどうなっているか検証してみたいと思います。
まず英国では、1日の新規陽性者数が4万7千人を超える感染爆発が起こりました(図-3)。

■図-3 英国の新規陽性者数と死者数の時間変動

しかしながら、致死率は予測通り0.21%のまま推移し、感染が自然にピークアウトした現在では、次第に死者数も減少し始めています。

■図-4 英国の陽性者数−死者数関係

ピーク後にやや減少度合いが少ないのはやや気になるところですが、結果は当初予測(線形に外挿)した通りになりました。

日本の陽性者数と死者数

前回記事から1カ月半の間、日本では東京五輪(7月23日〜8月8日)が開催されました。コロナ分科会の尾身会長が「東京五輪が感染拡大における人々の意識に影響があった」とする見解を示し、SNSやヤフコメでも「東京五輪の開催が感染を拡大させた」と主張する人がいます。

図-5は日本の新規陽性者数と死者数の時間変動、図-6は東京都の新規陽性者数と死者数の時間変動を示したものです。死者数は非常に少ないため、100倍の値に強調しています。

■図-5 日本の新規陽性者数と死者数の時間変動

■図-6 東京都の新規陽性者数と死者数の時間変動

日本も東京都もほぼ同様の感染曲線を呈しており、報告ベースの実効再生産数のピークは、日本も東京都も中央7日移動平均で7月28日です(有名な[東洋経済]のサイトでは東京都の実効再生産数のピークは7月31日ですが、これは後方7日移動平均なので、正確な解釈を行う場合には3日早い7月28日をピークとする必要があります)。感染から発症して報告されるまでは10日から2週間、最低でも1週間程度はかかるので、五輪開始前には、既に感染しにくくなり始めていたと考えるのが合理的です。しかもその後は15日連続して実効再生産数は減少しています。物理的に言えば、実効再生産数という「感染速度」が減少、すなわち「負の加速度」が発生したということは、五輪期間中には感染しにくくなる何かしらの「力」がずっと働いていたのです。

ちなみに、テレビ番組やSNSでは実効再生産数の物理的意味を理解していない人が散見されます。当然のことながら、「実効再生産数」はその時点の「感染のしやすさ」を示す数値であり、「新規陽性者数」の増加は「感染のしやすさ」が強くなっていることを直接示しているわけではありません。新規陽性者数が増えていても実効再生産数が減少していれば、全体の系には一定の歯止めが効いているのです。ここを間違えると、ときにとんでもない解釈に繋がってしまいます(実効再生産数が減少し続けているのに「歯止めが効かない」を乱発するNHKやサンモニはホントに泣きたくなるくらい無知ですw)。

もしも五輪の開催がコロナ感染に関与していたとしたら、それは感染をしやすくする方向ではなく、しにくくする方向と考えるのが合理的です(仮に五輪で感染しやすくなったと仮定すると、それを遥かに超える感染しにくくなる要因が必要となります)。

ちなみに人流も五輪開始前からマクロに減少しているので[分科会資料]、五輪開催によって国民に気の緩みが生じたというのも不合理です。「人流という意味で、オリンピックの開催が人々の意識に与えた影響の議論でいえば、私たちはあったと思う」という尾身会長の言説は演繹的に破綻しているのです。

日本の致死率の低下

さて、日本において、ワクチンの効果が出たか否かですが、当初の予測通りしっかりと出ています。まずは、日本全体の結果から見ていきたいと思います。

図-7は日本全国におけるコロナ陽性者数と死者数の関係の時間変動を示したものです。

■図-7 日本の陽性者数−死者数関係

この図を見ると、第5波がほぼ英国の第4波(デルタ株99%:約60%ワクチン接種済み)の実績とほぼ同様の推移を示しています。高齢者からワクチンを接種を進めた日本のコロナ致死率(死者/陽性者)は、第4波から第5波に移行する比較的早い時期から劇的な低下が起こり、一気に英国並みになったのです。

なお、ここで今回示した図-7は、前回示した図-1と少しだけ違っています。前回の計算では、あるアルゴリズムの下で全期間に一つのラグを与えていましたが、今回の計算では、各波でヒステリシス(上昇分と下降分のパスの差)が最小となるラグが得られるようアルゴリズムを改良しました。

今回の図を見ると第4波の死者のピークは直線から離れていますが、これは大阪府の医療崩壊と兵庫県の発表遅れによるアノーマリーによります。前回のラグ値はこの部分に強く影響を受けていました。この部分をアノーマリーと評価すれば、ラグ値は英国とほぼ同様になるのです。

図-8は、東京におけるコロナ陽性者数と死者数の関係の時間変動を示したものです。

■図-8 東京都の陽性者数−死者数関係

ラグ値には各波で日本全体と同じ値を割り当てています。東京の場合には日本全体と比べてデータ数が少ないためにカーヴにややバラツキが認められますが、大局的には日本全体と同様の挙動を示しています。

ここで、東京の第5波の致死率は日本全体よりも低く、さらに英国よりも低くなっています。やはり日本の首都だけあって、最先端の高度な治療が受けられるため、国内の他地域よりも低くなった可能性があります。もしこの傾向で進めば、陽性者数が5000人/日になっても死者数は5人/日程度にとどまる可能性もあります。いずれにしてもワクチン接種がさらに進んで40〜50代の接種率が高まれば、致死率をさらに低下することが期待できます。

ちなみに、英国の感染者のピークが4万7千人で、日本がこのまま2万人弱で終わるとすれば、日本と英国のコロナに対する耐性の差は今でも5倍程度はあるということになります。

このように致死率に関してドラスティックな変化が生じているにもかかわらず、分科会の専門家と称する人たちがまったくそのことを国民には知らせず、人流を50%減少させるためにロックダウンなどという暴論が渦巻いていることは理解不能です。

英国の第4波が何もしないでピークアウトしたのは、英国国民が気の緩みを解消したからと日本の専門家が考えていたとしたらギャグ以外の何物でもありません(笑)


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2021年8月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。