東京五輪の開催の可否や運営のスペックは科学的データに基づき行う必要があります。今、ワクチンの感染抑制および重症化抑制の影響が世界中で確認されている中、日本だけがその効果を無視して、連日開催側の倫理を悪魔化する報道が続いています。
現在日本のワクチン接種速度は非常に高くなっており、五輪開催時期にはコロナ死者数の90%以上を占める高齢者への大半の接種が終了する状況となっています。
英国の陽性者数と死者数
さて、ワクチンの効果がどうなのか、分析するためにまずはワクチン接種が順調に進んでいる英国について注視します。英国の感染は第1波から第3波まであり、ここに来て第4波がの到来が認められます。このうち第1波は武漢株のヨーロッパ変異株、第2波はスペイン変異株、第3波は英国変異株(アルファ株)、第4波はインド変異株(デルタ株)と言われています。
既に英国では新規感染の99%がデルタ株と報告されています。これまでの経験データを分析すると、英国の感染者数と死者数の変動には2週間程度のラグが存在しますが、陽性者数の増加(リバウンド)から既に1か月経過しても顕著な死者の増加は認められていません。この理由としては、アルファ株のみならずデルタ株にも有効であることが検証されているワクチンが重症化を抑えているためと考えられます。
ここで、陽性者数と死者数に16日のラグを与えてその関係をプロットして時間順につなげたものが次の図です。
この図を見ると、第1波(①)、第2波(②)、第3波(③)において、陽性者数と死者数に線形関係が存在することがわかりますが、この傾きこそ「致死率」に他なりません。致死率が最も高かったのが第1波、致死率が最も低かったのが第2波、アルファ株への変異が起こった第3波は致死率が第2波よりもやや高くなっていることがわかります。また、第2波がピークに達した後、アルファ株への変異が発生して致死率が高まったこともわかります。
現在の感染のフロントはどこかと言えば、「イマココ」のところです。拡大して見てみます。
この図からわかるように、感染者数は徐々に増えていますが、死者数は殆ど増えていません。これは致死率が非常に低くなっていることを示しています。これらの関係性を補助線で示すと次の図が得られます。
第4波について原点との関係から傾き(致死率)を求めれば、死者数を線形予測することができます。あくまでも外挿ですが、仮に新規陽性者数が4万人/日となってもその16日後に発生する死者は100人程度に抑制できることになります。
米国の陽性者数と死者数
やはり致死率が最も高かったのは第1波(①)であり、第2波(②)、第3波(③)は年率がやや低下しました。まだ第3波のリバウンドは発生してなく、陽性者数と死者数は第3波の致死率を維持しながら減少する傾向にあります。
日本の陽性者数と死者数
ここで日本について見ていきます。日本には第1波から第4波が存在します。現在、東京では感染者数のリバウンドが認められています。
日本では、第1波(①)が最も致死率が高く、第2波(②)が最も致死率が低く、第3波(③)はその間、第4波(④)は第3波よりもやや低くとなっています。ちなみに、日本の第4波(アルファ株)の致死率は、英国の第3波(アルファ株)の致死率と比較するとほぼ同じ値です(日本の方がやや低い)。現在致死率は第4波の致死率よりも徐々に低くなる傾向が認められます(直線からやや離れていく傾向があります)。これはワクチンの影響である可能性があります。
ラグが23日も存在するため、現在のところ、リバウンド後の陽性者数と死者数の関係を知ることはできませんが、もし英国並みの効果があれば、次の図に示した水色の矢印のようなパスを通ることになります。
これはあくまで、現在リバウンドが発生して陽性者数が増加していくシナリオによるものです。ワクチンの効果があれば、陽性者数もいずれ頭打ちになるはずです。
東京の陽性者数と死者数
さて、最後に東京について見ていきます。東京のラグは28日で、日本全体の傾向と類似しています。また、致死率は日本の平均よりもやや低めに推移しています。
ラグが28日も存在するため、現在のところ、リバウンド後の陽性者数と死者数の関係を知ることはできませんが、順調にいけば、第2波程度の致死率に抑制することも可能です。
なお、新聞やワイドショーで頻繁に紹介される専門家予測によれば、8月初めに東京で重症者数が800人になり、9月には1700人を超えるそうです。どのようなリスクシナリオなのか、残念ながら私には全く理解できません。
エピローグ
なお、ここまで英国・米国・日本・東京と感染状況を見てきましたが、大前提として日本と東京の感染者数と死者数は極めて低いことに注意が必要です。すべてを同一のグラフにプロットしたものが次の図です。
日本はやっと見える程度、東京は点でしかありません。このような状況にもかかわらず、ゼロリスクを追及し、米国に次ぐ世界2位の200兆円を超えるコロナ対策費を使う羽目に陥った最大の戦犯は、テレビのワイドショーとワイドショーに大衆操作された国民であると考えます。
編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2021年6月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。