6月対米証券投資:陥落前のアフガン、米国債保有高を積み増し

6月対米証券投資は、1,109億ドルの買い越しだった。2020年4月以来の売り越しとなった前月の300億ドルの流出から、流入に転じた。

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〇海外投資家の詳細は、以下の通り。

・民間 808.6億ドルの買い越し、3ヵ月ぶりに売り越した前月の418.6億ドルから流入に反転
→全て買い越し。米国債は買い越しに転じ、政府機関債は13ヵ月連続で買い越し、社債は6ヵ月連続で買い越し、株式は2カ月連続で買い越し

・海外中銀を含む公的機関 82.2億ドルの売り越し、11ヵ月ぶりに流出
→米国債を2ヵ月連続で売り越し、株式は2ヵ月連続で売り越し、一方で政府機関債は3年9ヵ月連続で買い越し、社債は3ヵ月ぶりに買い越し

〇海外投資家の米国債投資

民間と海外中銀を含む公的機関は合わせて108.6億ドルの買い越しとなり、前月の933.6億ドルの売り越しから転じた。ただし、海外全体の保有高をみると価格上昇の効果もあって6兆2,769億ドルと、20年2月以来の高水準だった。

・民間 300.6億ドルの買い越しと過去4ヵ月間で3回目の流入、前月は778.1億ドルの売り越し
・海外中銀を含む公的機関 155億ドルの売り越し3ヵ月ぶりに流出、前月は57億ドルの買い越し

〇米国債以外では、民間と海外中銀を含む公的機関合わせて以下の通り。

・政府機関債→227.4億ドルの買い越しと2017年4月以降の流入トレンドを維持、前月は378.2億ドルの買い越し
・社債→138.4億ドルの買い越しと6ヵ月連続で流入、前月は173.1億ドルの買い越し
・株式→252.0億ドルの売り越しと3ヵ月ぶりに流入、前月は24.6億ドルの売り越し

〇6月の金融市場動向

ワクチンが普及し経済正常化が進み、消費者物価指数などが上振れした結果。米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の経済・金利見通しは、2023年の利上げを見込む方向に変わった。テーパリングの議論に着手するとの文言もあったが、超党派でインフラ計画が合意したこともあって、ダウなど株式指数は最高値を更新。米10年債利回りは物価上昇が一時的との見方が広がり、1.6%を割り込みゆるやかな下方トレンドをたどった。

〇国別での米国債保有高トップ5動向

コロナ禍の流れが続き、1位は日本で変わらず、2019年6月対米証券投資で2017年5月以来初めて中国を抜いてからトップを保つ。中国は2位を維持するも4ヵ月連続で減少。その他、3位以下は英国、アイルランド、ルクセンブルクが続いた。

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チャート:トップ5の米国債保有高の推移。(作成:My Big Apple NY)

〇上位15ヵ国における米国債保有高ランキングの変化

・5~6月に続きスイスが6位、ブラジルは7位
・8位にケイマン諸島が浮上、代わりにベルギーが10位に転落
・インドが11位に浮上、代わりに香港が12位に転落
・韓国が14位に浮上、サウジアラビアが15位に転落

前年比では、中国や香港でマイナスとなったほか、インフレ加速に喘ぐブラジル、法人税最低税率導入で租税回避地としての地位が危ういアイルランドで米国債保有高の取り崩しがみられた。一方で、インド太平洋で米国と関係を強化するインドが前年比20.5%増、台湾も同17.0%増の2,360億ドルと大幅増を保つ日本(同1.2%増)や英国(同1.6%増)も、プラスを堅持した。

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チャート:米国債保有高上位15ヵ国・地域の動向(作成:My Big Apple NY)

〇米財務省が公表する主要保有国リスト

主要保有国・地域リスト(米国債保有高300億ドル以上)入りは34カ国・地域と、5月と変わらず。2019年11月当時の35ヵ国・地域に近い水準を保った。米国債保有高トップ15には入らなかったものの、5月に公表された為替報告書で「為替操作国」リストから除外されたベトナムは、順調に米国債の保有高を積み上げ、6月には前年同月比29.4%増の392億ドルと2ヵ月連続で過去最大に膨らんだ。7月には、米財務省との協議でベトナムの通貨ドンの競争的な切り下げを行わない方針で合意。両者の接近が伺える。

――さて、ここまでは通常の対米証券投資をお届けしましたが、アフガン陥落を受けて同国のほか、米国と関係が悪化する各国の米長期証券保有高をみてみましょう。

アフガニスタンの6月米長期証券保有高は、前年同月比で2.3倍増の32.3億ドルでした。内訳は、米国債が32.2億ドル、米株が500万ドル。興味深いことに、バイデン政権がアフガン撤退を表明する直前の3月から、急速に米国債を積み上げていたのです。非常事態に備え、安全資産である米国債の積み増しに動いたのでしょうか?政権を掌握したタリバンが米国債をどのように扱うのか、対米証券投資で確認するには、少なくとも10月まで待たねばなりません。

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チャート:アフガンの米長期証券保有高、タリバンの判断はいかに?使い道によっては、一段の情勢悪化も・・。(作成:My Big Apple NY)

2018年4月にトランプ前政権からの制裁発動を受け米国債の大量売却に踏み切ったロシアは、今でもご覧の通り粛々と米長期証券保有高を取り崩しています。6月時点では、前年同月比69.4%減の10.5億ドル。内訳は、米国債が3.1億ドルと過去最低に並び、米社債は8,100万ドルと2018年12月以来の低水準でした。一方で、米株は6.7億ドルと、少なくとも2012年以降で最大だったのですよ。

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チャート:ロシア、小幅ながら米株を積み増し中。(作成:My Big Apple NY)

この国も、ロシアと同じく米国債は売却しつつも、米株に資金を流入させていました。2018年4月にロシア製の地対空ミサイル「S400」の導入を表明し、2019年7月に納入を開始したトルコです。6月の米長期証券保有高は前年同月比19.3%減の24.4億ドルでした。内訳をみると、米国債は12.8億ドルと2012年以降で最低ながら、米株は11億ドルと、前月から微減ながら6ヵ月連続で10億ドルの大台を乗せていたのです。

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チャート:トルコも、ロシアが進み道をたどって米株を買い増し中。(作成;My Big Apple NY)

ロシアもトルコも米国から制裁を受けていますが、昇竜のごとき上昇を続ける米株の誘惑に勝てなかったのでしょうか。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年8月18日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。