水道民営化を選択肢から外す神戸市長の市民への背信

八幡 和郎

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神戸市の久元喜造市長が、Twitterで「神戸市はカジノはやりませんし、水道の民営化もしません。震災時、市内はほとんど断水し、避難所のトイレの水は流れず悲惨な状況になりました。水は市民の命に関わります。水道事業は市が責任を持って運営します。その上で業務の効率化を図ります。一昨日も水道局長から詳しい説明を受けています」といっている。

実に馬鹿げたことである。かつて宮崎辰雄市長が「空港は要らない」と政治的な判断から人気取りに軽率な発言をして、国際都市としての神戸の自殺というべき悲惨な結果を招いたのを思い出す。

別にカジノにせよ水道民営化にせよ、それをやるべきだと決めつける気はない。ただ、十分に選択肢として検討することもなく、政治的な風見鶏の判断として結論を出してしまうことに首長としての矜恃のなさを感じるのである。

経営者にとって最良の選択肢を広く検討しないのは、一種の背任だと思う。

水道民営化については何年か前に何度かアゴラで論じたことがあるが、水道事業の民営化にアプリオリに反対する人は社会主義者なのかカルトかそのどちらかに踊らされているかだ。

私はすべての事業について、どうしても民営化しなければならないものも、公営のままにしておかねばならないものも基本的には非常に少ないと思う。

鉄道や郵政の民営化についても私は中曽根氏や小泉氏のやり方は非常に拙かったと思うが、民営化などするべきでなかったとは思わない。メリットが大きければすればいい。

水道はどうかといえば、電力やガスと同様に公的関与は必要だが、経営形態として民営化も部分委託も選択として排除する理由がない。電力やガスは民営でよくて水道は公営でなくてはならない理由はなんなのか?

水は電力やガスよりも生命にかかわるという理由など見いだせず、あるとすれば宗教的感情としか説明できない。日本の特殊性はあるのかといえば、ないわけではない。日本は水は豊富なので、水が少ない国に比べればもちろん、安全保障上の重要性は平均的な国と比べても重要性は非常に小さい。

水道の民営化に共産党などは反対する。水道部門はとくに共産党系の労働組合の金城湯池だからだ。組合にとっては官公労の組合員の人数が最大の利権だから、必死になって民営化に反対する理由はあるし、それにだまされて反対陣営に加わっている保守派は哀れである。もちろん、地方公務員には外国人だってなれるから、保守派の嫌いで安全保障上の配慮が必要な国の国籍の人もたくさんいるはずだ。

地方公共団体の労務管理が水道の運営を引き受けるような大企業より厳格だと誰が信じるか。電力会社を国営化したら原発は安全になるのか?ありえない。

要するに、保守系の人の国粋主義感情を共産党などがくすぐって瞞しているだけだ。

国際的な流れからいえば、世界中で民営化が進んでいる。希に再公営化するところがあるが、それは、①地方自治体などでの政権交替(パリは社会党左派の市長になった)、②民営化したものの業者の選定を誤った、③民営化の目的であった改革事業が終わったので公営でも運営できるようになったといった場合だ。そのあたり知って反対しているのか社会主義者でないのに反対している人にはよく考えてもらいたい。

現在の水道事業は昔の土木チックな仕事(先端技術はいらない)でなく先端産業である。技術をもった企業でないとやれないので、どっちにしても、大事な部分はそうした企業に委託しなくてはならない。

経営についても、市町村ごとという狭い規模で行うことは電力会社やガス会社が市町村ごとでないのと同様に不合理だ。

本当は、たとえば、優れた技術力をもつ大阪市水道局などを早く民営化して和製水メジャーに育てるべきだったのだが、出遅れた。しかし、今からでも海外企業とも協力しつつ、近代産業に脱皮すれば、海外企業に丸投げするようなことにはならない。

海外企業の進出も和製メジャーの誕生も併存すればいいことだ。競争なしに先端産業なんぞ育たない。

水は安全保障にかかわるかということでいえば、1980年代に水道行政を担当していた時や、同じく水不足が慢性的な沖縄で勤務している時に、日本ではミネラルウォーターが普及していないので、断水などが安全に直結しているので、これを解消するためにミネラルウォーター、とくに、外国製の普及を促進するように仕事を通じても言論活動を通じても訴えた。

そして、うれしいことに今では、ペットボトルのミネラルウォーターが普及し、水不足がただちに命を脅かすようなこともなくなり、水の安全保障におおいに貢献出来たと自負している。

これに限らず、安全保障は自給に過度に頼ることで危険に陥ることが多いのだ。米だって1993年の米不足は過度の国産依存のために起きた。ジャポニカ種の米を海外でももっとつくったら米不足は起きない。

中国など内外での農地の取得とかに熱心だが、日本も見倣うべきだ。