「帝国の墓場」アフガンと中国の関係

イスラム原理主義勢力タリバンが15日、アフガニスタンの首都カブールを再び占領したというニュースが流れると、国外脱出が始まった。モーセは60万人の同胞を引き連れて神の約束の地「カナン」を目指して「出エジプト」したが、アフガンから脱出するガニ政権関係者、難民、移民、そして外交団の姿は希望を求めての出国ではなく、タリバン勢力の蛮行を恐れて、文字通り逃避する“敗北の群れ”のような光景を呈した。米軍が準備した輸送機には600人余りの人々が乗り込んできた。彼らは搭乗出来たことに安堵感を見せる一方、残された者に待ち受けている国の混乱を考えて憂鬱な思いと申し訳なさをを感じたかもしれない。

学習するアフガニスタンの女性たち「Afghan Institut of Leraning」(AIL)の公式サイトから

アフガニスタンは通称「帝国の墓場」と呼ばれている。モンゴル帝国、ムガール帝国、大英帝国、そしてソ連、米国という大国がアフガンの支配を試みたが、その野望を実現できず敗北していったことから、誰が言い出したのか、「帝国の墓場」と呼ばれるようになったという。

中央アジアと南アジアの交差点に位置し、外部からの侵略者を寄せ付けない山岳地帯だ。アフガンは東と南にパキスタン、西はイランに接し、北はトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、そして北東に中国と国境を接している。

賢明な人間、民族、国家は「歴史から学ぶ」が、世界制覇の野望に燃える中国の習近平国家主席は米国が出ていった空白を埋めようと触手をアフガンに伸ばしてきている。自分たちは最後は敗走すると知っていて他国に侵入する国はいない。中国共産党政権もアフガンが歴史書で「帝国の墓場」と呼ばれていることを知っているだろうが、やはり「自分たちは違う」といった思いが強いのだろう。大国(帝国)の傲慢さが最終的には敗走する要因となったように、中国共産党政権は今、傲慢になっている。「見ろ、米国が出ていった。米国の民主主義は敗北した」と豪語し、次は我々の番だという驕りが見え隠れする。

それでは中国はタリバンと友好関係を維持しながら、アフガンを自国の支配下に置くことができるだろうか。中国にとってアフガンはどのような魅力がある国か。先ず考えられる点は、①イランは数少ない同胞国だ。アフガンを支配下に置くことで中国はイランと更に近くなる、②習主席の提唱した「一帯一路」プロジェクトにもプラス、③中国はアフガンに埋蔵されたレアアース〈希土類)に関心がある。アフガンには最大3兆ドル規模のレアアースが埋蔵されていると推定されている。レアアースは半導体やバッテリーなどの先端産業と軍事産業に広く利用されている、④中国にとってアフガンを管理下に置くことで自国のプレステージを高める政治効果が期待できる。

海外中国メディア「大紀元」によると、中国外務省の華春瑩報道官は、「タリバンはアフガンの発展に対する中国の参加を期待している。中国はアフガンの平和と再建に建設的な役割をする」と表明、既に意欲満々だ。なお、中国の王毅外相は先月末、タリバンの指導者ガニ・バラーダル(Ghani Baradar)氏らと天津で会談、今月18日には、パキスタンのマクドゥーム・シャー・マヘムード・クレーシ外相と電話会談し、アフガンの政権移行がスムーズにいくため連携を強化することで一致するなど、活発な動きを見せている(中国国営新華社8月19日)。

ところで、中国とタリバンの関係はうまく機能するだろうか。中国側の一方的なラブコールに終わる可能性が排除できないのだ。タリバンはイスラム原理主義を標榜し、国体はシャリア(イスラム法)建設にある。一方、中国は「宗教をアヘン」と考える共産主義独裁国家だ。中国共産党は神や仏を信じる国民は反国家的な存在であり、その団体、組織は反体制派と受け取っている。

習主席は「宗教の中国化推進5カ年構想」(2018年~2022年)を推進させ、宗教者に信仰を捨てさせ、共産主義思想、中国共産党の教えに忠実であるべきだと檄を飛ばしてきた。同主席は、「共産党員は不屈のマルクス主義無神論者でなければならない。外部からの影響を退けなければならない」と強調する一方、「宗教者は共産党政権の指令に忠実であるべきだ」と警告している(「習近平主席の狙いは『宗教の中国化』」2020年6月12日参考)。

国家像から見ても、中国とタリバンは全く180度異なっているわけだ。中国新疆ウイグル自治区ではウイグル人が共産党政権の厳格な同化政策を強いられている。ウイグル人はイスラム教スンニ派が多い。彼らが無神論国家中国共産党政権によって弾圧され続ければ、タリバンは黙認できるだろうか。タリバンも一枚岩ではない。ウイグル人問題を重視する強硬派がいる。タリバン指導者たちはウイグル人問題を黙認し、中国共産党政権と良好関係を締結し続けることはできなくなるだろう。

中国は最近、中東外交に力を入れてきた。中東地域はサウジを盟主としたイスラム教という宗教が大きな影響を持つ地域だ。その地域に無神論国家を標榜する中国共産党政権が土足で入り込もうとしているわけだ。「中国の中東外交は今後も成功しない」とこのコラム欄でも書いてきた。例えば、王毅外相のトルコ訪問中に抗議デモが起きている。トルコには中国から逃げてきた多数のウイグル人が住んでいるのだ(「中国の対中東外交は破綻の運命に」2021年4月3日参考)。

タリバン勢力は政権奪回直後はロシアや中国の大国の支援が重要となるから、タリバンと中国はしばらくは良好関係を維持するかもしれない。しかし、タリバン主導の新政権が定着して、国家運営がスムーズに動き出せば、タリバンは必ずその本来のカラー(イスラム原理主義)を出してくるだろう。その時、中国はタリバン政権を宥めることができるか。過去の「帝国」は最後にはアフガンから撤退を余儀なくされた。中国がその例外という保証は全くないのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年8月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。