変わる中国のポジション

鄧小平の開放路線は中国が世界と太刀打ちできる水準に引き上げるための重要な政策でありました。その仕上げは世界の工場化であり、北京五輪と上海万博だったかもしれません。あいまいな表現にしたのは今、変わりつつある新しい中国の行方を何十年後かに歴史家が確証をもって論じるのを待っていられないほど重要な路線変更がなされるように見えるからです。

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習近平氏が今、やろうとしていること、これはcommon prosperity(=共同繫栄)であると17日に発表しました。なぜか日本のメディアはあまり取り上げていないのですが、なぜ、このタイミングでこれが出てきたのか、注目に値します。

動向が気にされていた今年の北戴河会議ですが全く漏れ伝わってきません。昨年はコロナで開催されなかったかもしれないという理由があったのですが、今年はその理由が立ちにくいと思われ、何らかの会議を厳重な警戒の下で行ったか、習氏が北戴河会議に出席しなかったかのどちらかであろうと思われ、習氏の厳しい独裁化が始まったとみてよいのかもしれません。

習氏がトップに着任した2013年以降「小康社会」(適度に落ち着きがあるゆとり社会)を目指したわけですが、その過程において西側諸国から取り込んだ技術力を梃に一部の民間企業が極端な成長をし、中国国内で「成功物語」が続出します。かつて一般庶民はその存在すら知ることがなかった欧米の高級車が街を当たり前に走り去り、巨万の富は個人の発言力などを通じて様々な影響力を及ぼし、SNSでそれらの声を一気に拡散させることに成功しました。これは習氏の求める「小康社会」ではなく、明らかに「チャンスをつかむ者は成す」という資本社会のもとに生まれたサクセスストーリーです。

習氏の民間企業に対する一連の締め付けは当初は「ジェラシーだろう」ぐらいだったと思われたのですが、明らかにそれを新たなる中国の方針として取り入れることを固めたようです。富の再分配をその手段の一つとして考えており、中国にはなかった固定資産税や相続税、キャピタルゲイン課税強化が取りざたされています。また、NPOやチャリティへの優遇が進むと思われ、今までの金持ちになる道筋を容易にできないよう断ち切る構えとみています。

アメリカでは中国投資の窓口である中国株に対して急速な「退避感」が出ており、出口戦略がより加速するとみています。また、中国株の新規IPOはアメリカ当局も投資家保護の観点から一時停止する公算が出ています。これは中国企業の急速な収縮につながり、経済の資本面からすれば世界をリードしてきた一角が一気に脱落することを意味しています。

例えば暗号通貨の発掘はつい半年前までは世界の7割が中国で行われていましたが、中国政府の政策変更でそれは一気に消滅に向かっています。暗号通貨はマネーゲームに近いことから習氏の方針に合わなかったものと思われます。環境問題を理由にしていますが、それは表向きで楽して金持ちになる道を断つということではないかと察しています。

一部の中国嫌いの方にすれば「しめしめ」なのでしょう。ところが実体経済は今日においても中国としっかりリンクしているのであってそこに政策的に予期しなかった過度の制約がかかれば世界は混乱に陥るのは目に見えています。つまり10年といった一定時間をかけて変更していくならともかく突然明日から、となればそれは我々の理解を超えてしまうのです。

中国という国家は我々が知るその中国と明らかに形を変えたものに変身しようとしています。強く管理され、富は配分されるでしょう。その時、中国は世界をリードする国家となりうるか、いつかGDPでアメリカを追い抜くとされていますが、その日が果たしてくるのか、習近平氏にとって大きな賭けに出たと思います。折しもアフガンではタリバンがイスラム経典に乗っ取った新しい国づくりを開始しようとしています。地球上では西側諸国のやり方が必ずしも普遍的ではなく、民主主義を実質的に否定する流れが出てきていることは憂慮すべき事態と言って過言はないでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月20日の記事より転載させていただきました。