経済危機にあるベネズエラでマドゥロ大統領は自らの誕生日にボニー・セペダ氏に公演を依頼。6万ドルを支払ったことにメディアで物議を醸した。
カリブ海サントドミンゴ出身のラテン音楽メレンゲのアーティストであるボニー・セペダ氏(Bonny Cepeda)が今年6月のラジオ番組「アロフォケ・ラジオ・ショー(Alofoque Radio Show)」に出演した。そ際にベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の誕生日を祝って彼の前で歌って6万ドルを受け取ったと語った。それはラテンアメリカのメディアで物議を醸すこととなった。
このYouTubeでその様子が見られる。
実際にそれが起きたのは昨年11月のことで、マドゥロ大統領の58歳の誕生日の時だった。それがこれまで明らかにされていなかったということなのである。
物議を醸しているというのも十分な理由はある。現在のベネズエラは全ての物(食料、医薬品、ガソリン、ガスなどなど)が不足し、インフレは天文学的な数字にまで上昇している。電気も頻繁に停電。20%以上の子供が栄養失調にある。生活苦からこれまで550万人が国外に出ている。給与も平均して月2-3ドルを稼ぐ程度でしかない。
このような厳しい状況下にあるベネズエラで自らの誕生日を祝うべく歌手を招いて6万ドルを支払ったということに誰もが唖然しているということなのだ。
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このラジオ番組の司会者サンティアゴ・マティアス氏はセペダ氏に向かって「あなたがもう二度とベネズエラには戻らないということであれば、私があなたに6万ドル支払ってあげる。多くの人が苦しんでいるのだ。人々が苦しんでいるのに、この野郎が祝いごとをすることなど許されない。あなたの名声ある音楽は尊重されている。この暗殺者の前で歌うことは、それをゴミ箱に捨てるようなものだ」と率直に語ったのである。(マドゥロ政権からつい最近差し押さえを喰らったベネズエラ電子紙「エル・ナシオナル」(6月2日付)から引用)。
それに答えてセペダ氏は「(この国に移民して来た)ベネズエラの女の子がキャラメルを売っている姿を見て私は涙が出て来た。しかし、これは別のことなのだ。我々、芸人は呼ばれた国で演技をする時や歌う時は(招いてくれた)お客を純化させることなどできない。彼らが契約してくれたのだ。折り返し私はそれを受ける書類を返送したというわけだ」と答えたのである。
そして、セペダ氏は言い訳とも捉えられる部分があった。ベネズエラの人たちや国際社会でマドゥロ氏が市民の人権を侵害していると判断されているようであるが、セペダ氏にはそうは見えなかったと言及した部分のである。そして、彼らがまた招待してくれるのであればそれに応えて公演を行う意向だと語ったのである。
さらに、同番組の中でセペダ氏はコロンビアのメデリンの麻薬組織カルテルの親分だったパブロ・エスコバル氏やパナマの軍人で独裁者だったマヌエル・アントニオ・ノリエガ氏の前でも公演したことも明らかにした。
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セペダ氏の行動に矛盾があるのは、彼は昨年からサント・ドミンゴ共和国の文化副大臣に就任しているということ。そのような人物が独裁者マドゥロ氏の前で公演をして出演料をもらっているのである。それに対してのセペダ氏の説明は以下のようになる。「文化副大臣として訪問する際には国家の公式訪問としてそれを行うが、芸人として公演をするのに招かれた時は文化副大臣の役から離れることにしている。」
ようするに、彼はこと演芸については政治とは切り離されたものだと言いたいようだ。それを説明するのにセペダ氏は「ボリバル広場で歌ったが、私にはマドゥロ氏が殺戮者には見えなかった。それは一部の人が言っていることで、そのようにして悪者として典型づけしているのだ。国の中で一方の人は満足しているが、もう一方は満足していない。そして満足しているその一方が現在政権に就いているということだ。もし(マドゥロと対立している)野党リーダーのファン・グアイドー氏がボリバル広場で歌うように招いてくれるのであれば公演をする意向だ」とも述べた。
7月21日には野党の一人が彼の公演を契約したということも明らかにした。(以上、同紙から引用)。
この番組を聞いたファン・グアイドー氏によって任命された在コロンビアの暫定政府大使トマス・グアニパ氏は怒りを募らせた。ベネズエラの人々が餓死し病院の医療崩壊が起きている間はマドゥロ氏が自己満足するためにサルサの歌手を契約するために高額を支払うことなど断固拒否すると主張した。その上で、「マドゥロと彼を囲む側近らへの蔑視は次第に度を増している。ひと月に1ドルしか稼げない人もいるというのに、マドゥロは自分の誕生日に歌ってほしいと望んで歌手に6万ドルを払ったというのだ」とツイートして批判をあらわにした。
それに対して、セペダ氏の持論は歌手は政治的圧力に拘束されることなく(招待してくれた)どこの国でも歌える自由をもっているということなのだと答えた。(同日付の同紙の別刊から引用)。
そこで一つ疑問が湧くのは、彼のような芸人は相手が誰であってもかまわない、金銭さえ払ってくれればそれで満足するということなのであろう。そこには人間のモラルは存在しない。
実際、マドゥロ氏の前で2013年にはメキシコの代表歌手フアン・ガブリエル氏(故人)や54歳の誕生日にはグループ歌手グラン・コンボ・デ・プエルト・リコがそれぞれ公演していたこともパナマ電子紙「パナム・ポスト」(6月2日付)で明らかされている。
ボニーセペダ氏(67歳)は作曲家であり歌手。編曲家でもある。彼の母親が歌手で弟のリッチーと一緒に幼少の頃からピアノを習い、オーケストラのピアニストとして始めたのが彼のプロへの道を歩み始める最初であった。1976年からレコーディングを始めて現在まで30枚のレコーディングをしている。