障がい者に訊く京都ALS事件① ~私がスイス安楽死を望む訳~

筒井 冨美

Pornpak Khunatorn/iStock

2020年7月、京都市内の筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis, 以下ALS)患者が、SNSで知り合った2人医師の手を借りて「安楽死」を遂げていたことが大きなニュースとなった。なおALSとは全身の運動神経系が徐々に侵される病気で、歩く・話す・食べるといった行為が段々と困難になり、進行すると呼吸すら困難になる一方で、意識は末期でも保たれている神経難病である。患者は医師のうちの1人とSNSを通じて知り合って安楽死を依頼し、計130万円を振り込んだとされた。別の報道では「患者は主治医に『管による栄養を徐々に減らして死にたい』という希望するも断られた」ともある。

医師たちは逮捕され、大手メディアでは「ナチスのような優生思想」「津久井やまゆり園事件の再来」のようなバッシングや「不要な命など無い」「安楽死よりも障がい者が絶望しないような支援を」のような美しいがどこか空疎なコメントが並んだ。一方でインターネット上には、「安楽死を法的に認めて欲しい」「苦しみながら生かされるのは辛いと思う」のような擁護論もそれなりに存在するが、大手メディアではほとんど取り上げられてはいない。

私はSNSを通じて、ある難病を患う女性と出会った。くらんけ(@IrreKranke)というハンドルネームで主にTwitterで発信している。早ければ2021年8月末にはスイス渡航して安楽死を選択する予定だと言う。幸いにも直接お話を伺う機会を得たので、ここに記したい。

――どういう病気ですか?

くらんけ氏(以下:くらんけ):神経系の難病です、個人特定につながるので病名はちょっと…明確な治療法はなく、私の場合は進行しても回復は望めない病気です。高校は車椅子で通学していました。進学校の普通科で、エレベーターや車椅子用トイレを整備してもらったし、面と向かってイジメられたこともありません。卒業のあたりから病気が進行して…その後は病院と自宅生活だけで十年以上が経ちました。

――現在の生活は?

くらんけ:現在は一級障害者に認定されて、母親に生活全般の介護を受けています。かつての同級生とも疎遠になってしまって…特に友人はいません。親しく交流するのは家族と犬と猫ぐらい。ネットを通じて付き合いのある人はいるけど、善人ばかりではないので…殺害予告を受けて警察に届けたこともあります。

限定スイーツを喜ぶくらんけさん

――行きたいところとか、好きな本や漫画、ファッションは?

くらんけ:日光が苦手だから遠出できないし、文字は長時間読めないんです。出歩くこともないからファッションもテキトーだし。今の楽しみは、ネットで見つけたスイーツのお取り寄せ。今回のインタビューも気が進まなかったけど、手土産のスイーツ(某高級ホテル限定の焼き菓子セット:写真参照)につられて承諾してしまいました(笑)…でも、そろそろいいかな。

――「スイスで安楽死」を思いついたきっかけは?2019年にはNHKでもドキュメンタリーが放送されましたよね。

くらんけ:ネット検索で見つけました。NHKの番組と時期は重なるけど偶然です。そもそもの計画では2020年の春ごろにスイス渡航する予定だったのですが、コロナ禍にモロにぶつかってしまって出国困難となって…「死ぬ気ないでしょ」「いつ死ぬの」などとSNSでコメントされたこともあります。2021年夏、やっとコロナワクチンも完了したし、スイス側の入国制限も緩和されたので近いうちに実行できればと考えています。

――スイスでの安楽死には、どのような手続きが必要ですか?

くらんけ:私が加入したライフサークルという組織では、以下の3つの英文書類が必須です

  • パーソナルレター(安楽死を希望する理由、生育歴/病状/予後など)
  • 家族の略歴と環境についての報告書
  • メディカルレポート(パーソナルレターを裏付ける診療記録と、それを保証する医師 のサイン

――書類作成は大変でしたか?

くらんけ:この中で最も大変なのが、メディカルレポートでしょう。現在の日本の法律ではサインをした医師は「自殺ほう助」に問われる可能性があるからです。また、公になると社会的にも激しいバッシングに晒される可能性が高く将来を棒に振るリスクが大きいけれど、協力するメリットは無いに等しいからです。

私の場合、当初は長く通院していた大学病院の主治医にメディカルレポート作成を依頼しましたが、精神科医と神経内科医で意見が分かれたり、倫理委員会での審議にかけられた後に拒否されてしまいました。やはり大学病院や公立病院などの立場のある先生では難しいのでしょう。

その後、SNSで出会った医師に協力してもらい、メディカルレポートを作成し、ライフサークルより安楽死の許可を頂きました。その協力医が大久保愉一先生でした…京都ALS事件で逮捕された2人の医師のうちの一人です。

②につづく

ライフサークルにおける手続きの詳細については、くらんけ著「安楽死に至るまで」がkindle出版されています。

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