来年の韓国大統領選に勝つのはきっとこの人物だ

青瓦台
TkKurikawa/iStock

6月29日の中央日報は、「今週は大統領選スーパーウィーク」と書いた。22年5月9日に任期5年を終える文在寅大統領を後継する、第20代韓国大統領選の予備候補登録が7月12日から行われるため、出馬予定者の下馬評が各メディアを賑わすからだ。

そこで筆者は、朝鮮日報、中央日報、東亜日報、ハンギョレと聯合ニュースのネット日本語版、そして李相哲龍谷大教授の「北朝鮮がつくった韓国大統領 文在寅」の記述などを基に、この韓国大統領選びについて考えてみた。

平成29年12月14日総理大臣官邸を表敬訪問する洪準杓氏(左)
首相官邸ホームページより

結論を先に言ってしまえば、保守系最大野党「国民の力」の議員で、17年に同党の前身自由韓国党(旧セヌリ党、旧ハンナラ党)代表として文在寅候補に敗れた洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員が有力ではなかろうか、と思うに至った。

本題に入る前に大統領選の日程を見てみる。予備候補者登録の届出は投票日の240日前からなので、22年3月9日が投票日の今回は7月12日から来年2月12日まで中央選挙管理委員会が受け付ける(7月13日の東亜日報)。

登録が済み預託金6千万ウォンを納めると、後援会を設けて選挙費用の制限額(約513億ウォン)の5%まで献金を受け取れ、選挙事務所の設置や10人以内の有給選挙事務員を選任、名刺配付やたすき着用など一部の選挙運動が行える。

立候補年齢は満40歳以上、国会議員は辞職しなくても立候補できるが、知事や検事などの公務員は選挙日90前の12月9日までに辞職する必要がある。よって台湾高雄市長のように休職して総統選に出馬し、落選後に復帰することはない(直後にリコールされた)。

政党所属者は、公職選挙法で定められた党の予備選後に推薦を受けて立候補する。無所属で立候補する者は、5つ以上の市や道で各々選挙権者の700人以上、計3,500人以上6,000人以下の推薦が必要とされる。ハードルは低くない。

名前が挙がっている野党側の立候補者、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長、崔在亨前監査院長、元喜龍前済州道知事、劉承ミン元「正しい未来党」共同代表、そして洪準杓の5人を12日のハンギョレが論評している。

与党のシンパ紙だけあって「国民の力」推薦の尹と崔を、「政治の門外漢を政治指導者と仰ぐ政治家の姿ほど奇怪なものがこの世にあるだろうか」と難じ、国会議員をせずに大統領になったのは朴正煕、崔圭夏、全斗煥の3人だけだと書く。

朴の暗殺後を繋いだ崔は官僚、朴と全はクーデターで政権掌握した軍人だ。が、朴は日韓国交正常化で漢江の奇跡を起こし、経済を復興させた。全も停滞する経済を再び成長軌道に乗せ、金大中の公民権回復などで緩んだ「ソウルの春」を引き締めた。

全は回顧録で、金大中逮捕を契機に起きた光州事件を、北朝鮮が介入した反乱・暴動であり、デモ隊は軍需業者や武器庫を襲撃、戦車や軍需車両、銃器5千余丁や弾薬29万発、爆薬2千余トンを収奪したと書く(李相哲前掲書)。何事も甲乙両論を踏まえる必要があるということか。

朴と全を見る限り、「政治の門外漢」に大統領の資格なしとは言えまい。トランプは議員経験なしに大統領の重責をこなしたが、上院議員歴47年のバイデンはむしろ危なっかしい。

残る3人は政治経験豊富だ。ハンギョレは元を「準備のできている候補」、劉を「経済専門家」で「改革保守の信念が強く、成果を出す政治家」と評する。洪は「派閥を作ったり力のある者に媚びへつらったりせず、個人技だけで院内代表、党代表を務めた」とし、「17年の出馬経験は強み」と評価する。

筆者が注目したのは、洪は「力のあるものに媚びへつらったりせず」とのくだりだ。国も国民性もこれとは逆の「事大主義」の韓国がどう変わるか見てみたいと思うのだ。

18年4月の南北首脳会談後の調査で、77.5%が金正恩を「信頼のおける」と答えた。が、洪は、「世の中が狂ってしまった。暴悪な独裁者が一度笑っただけで信頼性が77%まで上がる」と嘆じ、板門店宣言を「できもしない北の核廃棄を、恰も既にできているように煽動している」と難じた(李前掲書)。洪の正しさは今日の状況が証明している。

最大野党「国民の力」の李俊錫代表は36歳で立候補の資格がない。その李と尹の雲行きが怪しい。党の討論会に出ない尹を「イルカも参加せよ」非難したのだ。イルカとは、尹を応援する議員が尹をイルカに、他の候補を鯖や鰯に例えたのを論った、お定まりの内輪揉めだ。

これに13日の保守紙東亜日報は、李は「大統領選候補の予備選挙を公正かつ客観的に管理する」党代表として「自制すべき」とし、尹についても「奇襲入党と党内行事の不参加に続き、予備候補討論会を『群れ討論会』と蔑むなど李代表を刺激した」と自重を促した。

筆者は尹前検事総長を、無実(と筆者は思う)の朴槿恵と「経済共同体」を形成したとされた崔順実の特別捜査検事のチーム長を務めた後、文大統領から17年5月にソウル中央地検長、19年7月には検察総長に任命され「積弊清算」の一翼を担った人物として、信用していない。

与党側候補に目を転ずれば、16日発表の世論調査で尹錫悦(30.6%)の2番手につけた李在明京畿道知事(26.2%)、3位の李洛淵前代表(12.9%)、秋美愛前法務部長官(4.0%)、丁世均前首相(1.8%)らがいる。

冒頭の中央日報は「世の中の人たちが『公正』を話している。『チョ・グク事態』に象徴される不公正がそれだけ随所に蔓延しているからだ。今週次々と出馬を宣言する大統領選予備走者も例外なく公正を口にしている」と書き出されている。

そしてかつては「ろうそく集会に参加」し、文候補の「情報提供支援委員長」だった弁護士が「チョ・グク事態」を経た昨年12月に上梓した「公正社会に向かって」で、「ろうそく市民革命を継承したという政府がなぜこのようになったのか」、「進歩を標榜しながら既得権者として勢力を強めてきた『進歩貴族政権』」だと政府を酷評するのを紹介している。

また「文政権批判書が次々と出版されている」とし、「一度も経験したことがない国」、「もう二度と経験したくない国」、「文在寅の背信」、「真の進歩の告発状」などの書名を挙げる。他方、「反日種族主義」や西岡力氏の「よくわかる慰安婦問題」(韓国語版)も出版されたが、「反反日」は票になるまい。

与党候補評は7月20日の中央日報にある。「ビジョンがなく、政治工学ばかり」と題した記事は潘基文元国連事務総長を例に挙げ、支持率1位になったが「17年初めに大統領選のリングに上がるとすぐに棄権した」、「資金力」や「外交官特有の慎重さ」などが敗因とされたが「核心はビジョン不足」だったと断じる。大方が首肯するだろう。

記事は李在明について、「大統領を長く準備しているがこれというビジョンは見えない」とし、党の候補者討論会で女優との醜聞を問われて発した「ズボンを一度下げましょうか、は全国民を慨嘆させた」と書く。低俗な話はどうでも良いが、次の発言は選挙用だとして李の資格が疑われる。

李は「侵略国家である日本が分断されなければならないが、日本に侵略された被害国家である我々がなぜ分断という憂き目に合わなければならないのか」といったのだ(7月5日の中央日報)。が、日本は韓国を国際法に基づいて合邦したのだし、分断は米ソのせいもあるが、何より内輪揉めに明け暮れて自らチャンスを潰した結果だ。

李洛淵と丁世均の首相経験者は、共に自分が「民主党の嫡統」と血統争いをし、不動産暴騰については個人宅地所有制限(李洛淵)など市場に反する対策を出す有様だし、「タマネギ女」と揶揄されて「公正社会」に反する秋美愛前法務部長官は論外だろう。

李相哲の前掲書は洪に触れ、17年の大統領選立候補のため辞した慶尚南道知事当時、1兆3500億ウォンの債務を完済して「債務ゼロ宣言式」で植樹した木が、「積弊清算と民主化社会建設」なる市民団体に引き抜かれた話や、左派系組合が牛耳る医療施設や学校の改革についても書いている。

洪の後、18年の統一地方選で慶尚南道知事に就いたのは「ドルイドキング事件」で実刑となった文側近の金慶洙だ。この事件の起きた17年の大統領選で様々文を追求した洪は、文を監獄に送り得る人物であり、また洪自身の身体検査も済ませている。その意味でも最右翼の大統領候補と思う。