データ処理がなければデジタルヘルスは役立たない

「パルスオキシメータ」は脈拍(パルス)と酸素飽和度(オキシ)を同時に測定する機器で、コロナ患者の自宅療養で利用が一般化しメディアにも言及されるようになった。

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入院患者にはパルスオキシメータを常時装着し、酸素飽和度が急激に低下したら緊急対応するというのが普通である。自宅療養の場合には、息が苦しいなどと感じた時に測定し、酸素飽和度が下がったら保健所まで連絡するという使い方になっている。

自宅療養であっても、24時間パルスオキシメータの数値が保健所に転送されれば、患者の状態は自動的に分析され緊急対応できるようになる。脈拍と酸素飽和度をデジタルで表示するよりも、自動的にデータを転送し処理する仕組みはもっと重要である。わが国にはそれがない。

数値は目視で読み取るのだが、例えば脈拍95・酸素飽和度80を脈拍80・酸素飽和度95と取り違えると、大きな事故につながるかもしれない。これを避けるにも、データが自動的に転送され処理されるほうがよい。

朝日新聞(8月22日)に「遠隔医療、先端走るイスラエル」という記事があった。肺の音を調べる手持ち機器からデータがネット経由で医師に共有され診察に利用される、といった事例が紹介されていた。

データ処理の観点で読むと、記事の要点はここだ。

医療データを幅広く活用できるのも同国のデジタルヘルス産業の強みだ。医療保険制度を担う四つの保健機構のいずれかに国民は加入し、医療データがデジタル化して管理されている。機構は企業と提携し、匿名化された医療記録をビッグデータとして提供して商品開発につながることもある。そうして生まれた商品を機構が提携する病院などで使い、加入者は遠隔医療を受けられるという循環ができている。

デジタルヘルス機器からのデータを自動処理する際に過去の医療データと照合できれば、遠隔医療はいっそう有効化・効率化する。

イスラエルではそれができるが、わが国にはない。わが国では、診療所の過半が手書きカルテを用いているからだ。厚生労働省は医療分野の情報化の推進施策を展開しているが進展は遅い。

電子カルテは導入費用が問題という意見もあるが、そうであれば、国費で一気に導入するのも一案である。データ処理で医療が向上すれば、元は取れるからだ。

デジタルヘルスでは多様な機器の開発も重要だが、データ処理がもっと大切である。この観点に立って、情報通信政策フォーラム(ICPF)ではデータヘルスについてZOOMセミナーを開催することにした。どうぞ、ご参加ください。