ベネズエラ出身のマラソンスイミング選手、練習のためのプールがないという理由でチリに行って生活費を稼ぎながらのオリンピック出場であった
東京2020オリンピックの女子マラソンスイミングに出場したパオラ・ペレス選手(30)のことなど日本では話題にならなかったと想像する。彼女はベネズエラを代表して出場した選手だった。
オリンピックに出場するのに東京に向かう前まで彼女はチリでトレーニングしていた。経済的に窮状にあるベネズエラでは食料品や医薬品などを含めすべての物資が不足している。2014年頃から現在まで、およそ550万人が生活苦から逃れるために国を後にしている。
このような厳しい状況にあって、パオラ・ペレス選手がベネズエラを出国してチリに移ったのは練習できるプールもトレーナーもいないというのが理由であった。しかも、コロナパンデミックがさらに状況をより厳しいものにしていた。
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2016年のリオデジャネイロで開催されたオリンピックでは20位に入った。それ以後、4年先の東京オリンピックへの出場を目指して練習に励んでいた。
ところが、2019年にペルーのリマで開催されたパナメリカ競技では水温が摂氏18度の中で彼女は競技に出場した。選手はネオプレンの水着を着て出場する必要があった。しかし、ベネズエラの水泳スポーツ連盟もスポーツ省も彼女にそれを送らなかったし、この競技の為に医療団も派遣されていなかった。それでも彼女は出場することに決めた。
その結果は、低体温症に罹り競技の途中から退場して死と戦わねばならない状況に追い込まれた。競技に出場した他の選手や関係者はまさか彼女がネオプレンの水着を着用せずに出場したということは想像だにしなかったのであった。この出来事からでも想像できるようにベネズエラが置かれている厳しい現状が理解される。
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彼女は国からの経済的な支援がないということから他の国で練習することに決めてチリに移った。チリの首都サンティアゴ・デ・チレには彼女の友達がいてその家族と一緒に生活する機会を提供されたからであった。そこでは子供たち水泳を教えることで彼女のトレーニングにかかる費用の一部を負担した。コーチには彼女のフィアンセが同伴した。しかし、水泳指導をするだけではトレーニングや遠征に必要な資金を稼ぐことができないということで米国のプラットホームGoFundMeに接触して資金を集めるキャンペーンを始めた。特に試合で遠征に出ると費用が掛かる。ベネズエラの関係スポーツ連盟からの支援は一切ないからである。
独裁者マドゥロ大統領の誕生パーティーには60万ドルを払って著名歌手のコンサートを開いたほどであるのに、オリンピックでベネズエラを代表する一人の選手に一切支援金を支払っていないのである。
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今年6月の大会では2時間3分31秒61をマークした時にツイッターでマドゥロ大統領から祝福のメッセージを貰ったそうだ。そのメッセージの中で政府からの支援が約束されたのであった。
それに答えて彼女は大統領に宛てて「オリンピック出場に因んでこれまで約束されたこと以上の支援であることを今回は期待する。リオ2016に参加したことで家を提供することが約束されたが、約束だけに終わった。今年こそはこれまで以上のものの提供があることを信じている」と回答した。ところが、大統領からの返答はなかったそうだ。
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東京オリンピックでは他の選手と比べ見劣りすることはもう感じなくなっていたと言う。むしろ、彼女は他の選手と同等だと感じていたそうだ。
競技の結果は25人の出場選手の中で2時間5分45秒をマークして前回のリオと同じ20位に入った。これまでの色々な障碍がなかったならばもっと良い成績を上げていたかもしれない。(8月3日付「インフォバエ」と「マドゥラダス」と彼女とのインタビューYouTube からの引用)。