小池知事の言動矛盾にみる「政治指導力」 --- 半場 憲二

これと思ったら、有無を言わさず突きとおすことが政治指導力だと大きな勘違いをしている人物が増えていないでしょうか。テレビ・メディアへの露出頻度の高い政治家にその傾向があります。芸能や料理の世界ならいざしらず、こと政治家の夢想や強欲さというのは、書籍が物語るように場合によっては「病気」であるかもしれず、国民にとって百害あって一利なし、国民が注視すべきところです。安倍元首相が体調不良や健康問題を理由に幾度とその地位をおりたというのは、政治家としての「いさぎよさ」などという情緒論からではなく、日本の将来を見据え、国家の運営を誤らないためにも至極まっとうな判断だったといえるのです。

東京都・小池知事の言動を注目してみましょう。パラリンピックの無観客開催が決まった中でも、児童・生徒らを観戦させるのは「教育的価値がある」と言い切っています。平時であれば、確かに教育的価値は「有る」だろうし「高い」といえたでしょう。しかし9月12日まで東京都をはじめとする2府10県は新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の最中にあり、1道15県でまん延防止等重点措置を実施し、若年層の感染防止を優先した人流の抑制策が鍵だと言われ、範囲の拡大が検討されています。

先月、小池知事は定例記者会見で「20代30代の感染者に味覚が戻らないなどの後遺症が出ている」とした上で、「皆さんおっしゃるのは、自分がかかるとは思わなかったということ。他人事ではないということをしっかりと発信をしていく」と若者に寄り添うかのような発言をしました。

しかし、その後「災害級の危機、帰省、旅行、修学旅行は諦めて」(13日)と言ったかと思えば、パラリンピックにおける児童や生徒らの観戦について「希望されるお子さんが実際にパラリンピアンの努力や姿をみることは、やはり教育的価値は高いと思う」(19日)と述べています。

19日、都議会本会議で「都立学校において都と県をまたぐ修学旅行などについては中止または延期」といい、感染力の強いデルタ株が「もう皆さんのすぐ隣にいる」(同日)と言ったかと思えば、怪談ではあるまいし「大会中に実施を予定している学校連携観戦プログラムは、まさに教育的な要素が大きい」(20日)と同一人物が真逆の事を述べているのです。

東京都教育委員5名のうち全員がパラリンピック観戦に反対の意思を表明するなか、小池知事の「鶴の一言」が流れをつくるのです。結果、都内8の自治体で約13万人以上、都立学校は約250校のうち23校で約2000人が観戦に参加する意向にあるといいます。

https://www.fnn.jp/articles/-/228240 「イット!」8月23日放送

若者たちの心身の成長と発達を軽視しすぎです。感染力の強いデルタ株は10代の若者層が感染者の6割を占めると明らかになっています。よく考えてみてください。多感な時期に味覚や嗅覚、体力が奪われる事が、どれだけ苦痛であるか。感染拡大が懸念される都市中心部や人が集まる競技会場へ児童・生徒を組織的に移動、大量に動員させるのは、PCR事前検査の有無に関わらず、現代政治指導者の倫理観を疑いますし、人流抑制効果を期待する自身の言動に矛盾しています。

選挙権や被選挙権のない若者たちが、政治的にも選挙行動においても大きな脅威ではないという点から、平時の教育的価値感と有無を言わせぬ強欲な政治指導者の駒として振り回されるのは不幸なことです。

これを証明するかのような東京都の取り組みが「若者ワクチン接種」ですが、これについては『小池知事ブチ上げ「若者予約なしワクチン接種」 東京都との一問一答で見えた仰天“見切り発車”ぶり』(日刊ゲンダイDIGITAL8月20日)に詳しいので、ご覧いただきたいと思います。

古い思考の政治家は個人の経験と知識の蓄えの中から「私はそう思う」と、今ではインターネットで検索可能な程度の情報を都合よく解釈し、社会的価値基準があるかのように判断します。そして同じような考えをもつ者に囲まれ、自分と相いれない情報を避けようとします。

認知心理学でいう「確証バイアス」です。

確証バイアスを軽減させるためには「反証する情報」を取り入れることが必要です。しかし、小池知事は常識的な世論や専門家の意見に目もくれません。反証を受けつける気がないのです。「新型コロナウイルスとの戦いに勝って金メダルを取りたい」と言ったようですが、みずから手間暇かけ努力しているわけではありません。若者ワクチン接種は見切り発車のままです。感染後のフォローがないまま、若者をデルタ株や新たに懸念される変異株、注目すべき変異株の脅威にさらし、自分だけは貴賓席から高みの見物、メダルを獲得できると夢想しています。

動員される若者らが感染、重症化しないことを祈るばかりです。

五輪開会 主要官邸HPより

半場 憲二(はんば けんじ)
メンタル心理ヘルスカウンセラー 福祉心理カウンセラー 日本語教師