混迷のイタリア政局:コンテ前首相がまた首相に復帰する可能性

コンテ前首相がまた首相として復帰するかもしれない

イタリアはこの先半年は議会の解散も総選挙もできない期間に入った

イタリアのマッタレッラ大統領の任期が来年2月に終了する。任期満了まで残り半年となってイタリア議会の解散も総選挙の実施もできない期間に入った。議会の解散や首相交代が頻繁に起こることが慣例となっているイタリア政界は冬眠の時期に入った。

大統領の後任にはマリオ・ドラギ首相が現在有力視されているが、彼の首相としての任期は2023年となっている。ということは、マッタレッラ大統領が来年2月の任期満了を2023年まで延長させる可能性もある。

ドラギ首相が来年大統領になるかもしれない

現在のイタリアは、コロナ禍の影響による経済立て直しとしてEUから2220億円を賦与されている。それを使ってイタリアの新しい経済構造の構築を図っている。その先頭に立っているのがドラギ首相だ。その成果を見ずに、彼が大統領選に臨むことはまず考えられない。

しかし、それまで待てないと周辺が状況を判断して、ドラギ氏が大統領選に出馬して選出されると、かじ取りのいない政府は必然的に総選挙に踏み切らざるをえない。

仮に総選挙となると、サルビニ氏が率いる同盟はイタリア同胞とフォルツァ・イタリアと連携して政権獲得に動くはずだ。また同盟は、EU加盟国でも東欧諸国と連携して現在のEUのドイツとフランスを主軸にした官僚的な体制を崩そうとしている。

英国の去ったEUでは経済的規模は3位に位置するイタリア国のEU内での影響力は強い。イタリアの政局が動揺すればEUの運営にマイナス影響するのは必至だ。

右派に対抗すべき勢力は現在最大の議席数をもっている五つ星運動に民主党が連携する形だ。特に選挙の度に議席を減らしていた五つ星運動はコンテ前首相が党の再建に乗り出した。8月上旬に党員から正式に彼のリーダーシップが承認されたからだ。これによって少なくとも五つ星運動の再生が期待できる。それは右派連合に対抗できる民主党との中道左派連合が正式に誕生することになる。

五つ星運動の再建に乗り出したコンテ前首相

コンテ前首相が五つ星運動の再建で党員から支持された背景を以下に説明したい。2009年にデジタル政党として誕生した五つ星運動(M5S)の再建に乗り出していたコンテ前首相は8月初旬、党員の数11万5130人とされる中で6万7064人がオンラインで投票し、92.8%がコンテ氏による党再建に支持を表明した。(8月7日付「ABC」から引用)。https://www.abc.es/internacional/abci-primer-ministro-conte-nuevo-lider-movimiento-5-estrellas-202108072242_noticia.html

政治には素人で大学の法学部の教授だったコンテ氏は同盟と五つ星運動の連立政権で中庸な人物だとして首相のポストに両党の合意で就任した。当初、両党の操り人形になるものと思われていた。ところが、半年経過すると、イタリア市民から穏健な首相としてのコンテ氏に信頼が集まり彼への支持率は62%まで上昇するという現象が起きたほどであった。

五つ星運動は2018年の総選挙で得票率33%を獲得して同盟との連立政権を誕生させたが、それ以後の同党は次第に支持率を失っている。リーダーが不在ということで、同党の創設者のひとり喜劇役者のペッペ・グリッロ氏は党の再建を今年3月にコンテ前首相に要請した。ところが、党の再建に両者の考えの違いが鮮明になり、7月にグリッロ氏はコンテ氏を解任するという一幕もあった。

その原因はグリッロ氏が飽くまで党の再建に関与しようとして、コンテ氏との二頭制による再建を主張したからであった。コンテ氏は二頭制による再建はうまく行かないとしてそれに反対した。しかも、コンテ氏は党を刷新するのに中道左派を目指し環境保護も謳った政党として再建することを主張。その為の党の網領も編纂したのである。

これまでの五つ星運動を支持して来た有権者は政治への批判はするが、もともとポピュリズム政党であって政策に一貫性がなく、一つの軸になるものをもっていない。それから決別することをコンテ氏は主張したのである。

例えば、議会で討論しているある政策について五つ星運動の議員が賛成しても、それを党員から過半数の賛成がないと同党の議員はそれを実行できないことになっている。しかも、大半の党員は政治には素人である。彼らが思いつきで「反対」をインターネットで表明して、それが過半数を占めるようになると議員としてプロの目から見てよい政策であってもそれを遂行できないことになる。ここにポピュリズム・デジタル政党の政党の限界があるということになる。コンテ氏はこのシステムからの脱皮が最低限必要な条件であるとしている。

コンテ氏は首相も経験したことから五つ星運動が今後も存続して行くにはプロの政党として成長させていかない限り成長はないと見ている。

コンテ氏は今年末にはこれまでイタリアで編まれたことがないほどの多くの人たちの意見を取り入れて重要な政府のプログラムがつくるようにすると述べている。その為にも、9月からイタリア全土を訪れて人々と意見を交換することを明らかにしている。

来年の総選挙の可能性は高い

五つ星運動が上手く再建に成功すれば民主党にとっても大いに助けになる。民主党は政権を担うには五つ星運動との連合が必ず必要になるからである。

年内の総選挙はない。しかし、ドラギ首相が2023年まで首相として続投することは難しいであろう。来年の総選挙の可能性は高い。サルビニ氏の同盟をリーダーとする右派政党か民主党と五つ星運動の中道左派の政権を目指しての熾烈な戦いが来年は展開されそうだ。