カスティージョ大統領は自らの墓穴を掘っている
ペルーの代表紙のひとつ「ラ・レプブリカ」は8月11日付でボリビア政府で大臣を経験したカルロス・サンチェス・ベルサイン氏とのインタビューを掲載した。同氏は現在「民主主義の為のインターアメリカン協会」の会長を務めている。このインタビューの中で、同氏は「ペドロ・カスティージョ氏は自らの墓穴を掘っている」と述べ、閣僚の人選などでの過ちや自らのイデオロギーに執着して修正を加えない状態でいることを指摘した。そして、「(彼の政権は)100日ももたないと私は思う」と語ったのである。
更に、同氏は「カスティージョ氏が大統領としての執務を取ろうとしても、彼にはそれを遂行できるだけの権力はなく、執行権においてもコントロールできないでいる」と見解を述べた。
党首から遠隔操作されている大統領
サンチェス・ベルサイン氏の指摘をより強調させるかのように、同紙は9月1日付で「統治せよ、大統領」という見出しの記事を掲載した。現在のカスティージョ大統領の沈黙を守り続けるだけの政治スタイルは常に疑問を投げかけるものになっている。彼の閣僚が過去に極左武装組織センデロ・ルミノソと関係していたことがメディアから憚れてもそれに対して如何なる判断も下さない。例えば、オベル・マラビー労働相が過去にセンデロ・ルミノソと関係していたことがメディアで明らかにされて、ギド・ベリード首相が辞任を促してもマラビー労働相はそれを拒否。そして同労働相は辞任するしないは大統領に一任すると表明。それに対して、カスティージョ大統領は沈黙を守ったままの状態が続いている。そこで議会がマラビー労働相を辞任させるべく審議にかけることになった。
ギド・ベリード首相もセンデロ・ルミノソを擁護する発言と、また彼の政党の資金操作の疑惑で起訴されている。更に、3人の閣僚にも汚職などが明らかになっている。その為、最初の内閣の信任を問う議会を前にしてカスティージョ大統領は首相を筆頭に閣僚の入れ替えを実行するという噂もあった。が、彼の政党「自由のペルー」の党首ウラジミル・セロン氏から閣僚の入れ替えは必要ないと言われて、その通りにして議会で左派系の政党が信任票を投じて過半数に至り可決はした。しかし、このまま閣僚の入れ替えがなく政権が長く続くとは思われない。
しかも、ベリード首相も議員としての経験は殆どない。彼はカスティージョ大統領よりも野党から嫌われているセロン氏に忠実な人物であるから野党との交渉能力はない。
カスティージョ大統領は教員の労働組合で活躍して全国レベルで知られるようになったということだけで、これまで政治については全くの素人。しかも、大統領候補になれたのも、政治経験が豊富な党首のセロン氏が汚職の前科があって大統領に立候補できないということでカスティージョ氏に白羽の矢を当てたということだ。セロン氏はカスティージョ氏であれば操り人形として遠隔操作できると考えたのであろう。
議会の主要な委員会の委員長にはすべて野党が就任している
カスティージョ氏の大統領としての采配は全く見せられていない。財政管理と憲法審査の二つの委員会の委員長にケイコ・フジモリ氏が率いる政党「フエルサ・ポプラル」の議員が就いたことと、予算審議委員会の会長には同じく野党の「発展の為の同盟」の議員が就任したことがあげられる。特に、憲法改正を望んでいるカスティージョ大統領にとって飛ぶ鳥の羽をケイコ・フジモリ氏の政党に取られたようなものだ。
唯一、憲法改正に残された道は国民投票を実施してそれを国民に問うことである。しかし、それも定員130議席の共和国議会で与党「自由のペルー」は僅か37議席しか持っていないということ。右派の野党が過半数を十分に超える議席を有しているということで、カスティージョ大統領にとって政権運営は非常に難しくなっている。
住民からは政権運営不能による弾劾裁判を要求する動きが生まれている
マリア・デル・カルメン・アルバ議長がある電子紙とのインタビューの中で、住民からはカスティージョ大統領を弾劾裁判にかけるべきだという要求が伝わっていることを明らかにし、議会ではその審議の為の提案はまだ上がっていないと述べたことが9月5日付「コレオ」にて報じられた。
ロックフェラーセンターのディレクタースティーブン・レビッツキー氏は、もしカスティージョ氏が執拗に憲法改正を主張するようになると、クーデターを招くことに繋がる可能性もあることを指摘している。というのは、その改正の為に選ばれたのではないということを知るべきだからだとしている。また政権を運営して行くには中道派と中道左派の政党とも連携するように図るべきだと指摘している。
更に、同氏は仮に彼の政権が2026年の任期満了まで続くとすれば、それは驚きだとしている。というのも、彼には政治に就いての経験が皆無であるということ。しかも彼の政党は力がない。彼を囲む有能な側近もいない。彼の政党は議会では少数政党でしかない。企業家そしてすべてのメディアが彼に反対している。司法そして軍隊にも味方がいない。これらのマイナス要因がある中で2026年まで政権を維持できるのは不可能に近い、ということをレビッツキー氏は挙げたのである。(8月12日付「パナム・ポスト」から引用)。
しかも、彼の背後にいる彼の政党のリーダーであるヴラジミル・セロン氏はフィデル・カストロ氏やウーゴチャベス氏の崇拝者で尚更国民からの信頼に足りない人物とされている。
カスティージョ大統領の政権運営にプラスになる要因は何一つないというのが現状である。
しかも、カスティージョ氏が大統領になる可能性が生まれてから現在までGDPのおよそ1.3%に相当する資金が国外に流出されたという。カスティージョ氏が大統領に就任した今も政権運営に不安材料が収まるどころか逆に増えているということで資金がさらに流出することは必至である。
カスティージョ氏の政権が続く限りそのつけを払わされるのはペルーの国民であろう。