自民党総裁選の行方ががぜん面白くなってきました。立候補者は岸田、河野、高市の3氏に絞られたとみてよいでしょう。石破氏はしゃべるのも遅いけれど決断も遅いです。この選挙の行方を巡っては様々な調査がありますが、世論調査はほぼ意味がなく、党員投票と議員投票の行方次第ということになります。
現時点での未知数は認知度で劣る高市氏の展開でしょう。虎ノ門ニュースやジャーナリストの有本香氏との接点が強いようですが、逆にそこを押しすぎると選挙戦では勝ちにくくなるかもしれません。
ただ高市氏の発言をじっくり聞いた限りの印象を申し上げると物事をよく勉強されていて説明もクリアです。わかりやすく論理的積み上げ型を展開しています。強烈な印象にはならないのですが、大きく踏み外すこともなく、保守派としてきっちり発言なさっています。小池百合子氏の宇宙人的な感性がにじみ出る感じとまったく違い、どちらかといえばドイツのメルケル首相型かな、という気がします。(メディアは「日本のサッチャー」といいますがそんなパワフルな方ではないと思います。)
河野氏は氏のユーチューブ番組などを通じて長く国民とコミュニケーションをとってきたという点で知名度と親近感が圧倒しているのですが、彼は表の顔と裏の顔がある気がします。つまり、記者会見などではソフトな「太郎節」ですが、身内に対しては相当厳しいタイプです。それこそ昔なら灰皿が飛んできてもおかしくないそんな感じです。そのタイプに見える性格は一般に自分の答えをしっかり持っていて、実務がそれについてくるという強い自意識があり、強引なところがあります。
河野氏の国民人気と裏腹に議員の中での不人気とはそこにあります。つまり議員からすれば取り組みにくい相手で、議員同士の連携をさほど重視しないタイプです。アメリカの大学に行っていたのでいわゆる個人主義と実力主義がより鮮明に出ているのでしょう。仮に首相になった場合、本人も周りも割と苦労するかもしれません。行動的には小泉元首相に近いかもしれません。
岸田氏は政治家の王道を行くプロ政治家と称してよいでしょう。経営の世界でよく「プロ経営者を招いてビジネスの再構築をする」ということがありますが、岸田氏はその範疇に入るタイプです。ただし、プロ経営者が絶対にうまくやるという話はありません。アメリカには数多くのプロ経営者が様々な業界を渡り鳥的に歩く人もいますが、大きく花咲かないことも多いのです。つまり枠からはみ出ないけれど大輪咲かず、です。
今回の選挙戦で岸田氏の名前の露出度は高市、河野氏とくらべ低いと言わざるを得ません。発言内容にニュース性がないのでしょう。それは長短でもあります。外野の声に振り回されず、しっかり計画通り進めることができる一方で「しょうがないから岸田さんにしよう」的な最後のよりどころになりかねません。つまり比較材料に使われ、保険的なポジションになるとみています。
では、総裁選への取り組み方ですが、衆議院選を控え、今後5年の自民党をどういう位置づけにするのか、世界の趨勢はどちらか、この辺りも一つの参考事例になるでしょう。私はリベラルと保守というのは常に綱引きのようなものだと思っています。この数年、リベラルがアメリカを中心に強まっていたのですが、私の北米での肌感覚では逆転しつつあります。バイデン大統領の不支持率が支持率を上回ったのも一例。カナダで9月20日に投開票される総選挙では現与党の中道左派、自由党が右派の保守党に逆転されそうだということもあります。
つまり行き過ぎたリベラルは必ず反動があるということです。日本の場合は自民党内部の温度で見る必要があります。安倍氏が首相だった時も森友、加計、桜を見る会の問題でリベラル派が押しまくり、安倍氏の劣勢となり、コロナでまるで次元が変わってしまったというのが流れでしょう。ところがその間に中国は好き勝手しているし、ミャンマーやアフガンの情勢変化、竹島や北方領土の実効支配がその間に着実に進展した中でそんな弱腰でよいのか、という疑問がわき始めています。
SDG’sの取り上げ方も変わってくるとみています。一部ではエキストリームな状態で、今のままでは「持続不可能なSDG’s」と断言します。私は流れが逆転するとは言いません。ただ、現実はそれほど簡単ではないし、世の中の仕組みが勢いだけで変われるものではないと思っています。非常に政治的メッセージ性が強く、共感を呼びやすい内容で翻弄されたということです。世界の人や企業がそれに煽られたのでしょう。
ここまで書くと3氏の中でリベラル色の濃い岸田、河野両氏と保守本流の高市氏がどのような得票になるか、これが衆議院選も占うと思います。好き嫌いを別にしたら高市氏が総裁になったら非常に面白い衆議院選になると思います。中国では「高市って誰だ?」で嫌な取り組み相手として分析が進んでいます。
ただ、私の不満は3氏とも経済に圧倒的強さがある人がいないことでしょうか?コロナ経済対策を単に金銭的補償で終わらせるのか、この機会に日本の体質改善を進めるのかは大違いです。閣僚候補に経済通があまりいないのは経済が政治家の王道ではないからなのでしょう。
私はいまだ誰が勝ち抜くか、判断がつきませんが、性格や強み、弱みからみる将来像の分析は重要だと思います。選挙戦は河野氏を中心に彼を支持するか、否か、という軸で回るとみています。またこの選挙の投票率はほぼ100%で人気投票に近い一般の選挙とはまるで違う引力がある点から3氏それぞれに勝ち目が残っていると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月12日の記事より転載させていただきました。