麻生太郎先生が「ほぼ詐欺」と断じたものは

2016年8月30日、麻生太郎先生に特有の乱暴にして含蓄の深い発言が報じられた。先生の学生時代、即ち、日本の高度経済成長期について、「怪しい商売は不動産と証券だった。昭和30年代、40年代に学生だった人は誰でも知っている」と語り、かつ、学生仲間で証券会社に就職したのは、「よほどやばいやつ」で、そこでの行為は、「ほぼ詐欺」だったと述べたのである。

麻生先生の発言は表現が乱暴なので物議を醸すが、多くの場合、内容は理に適っている。実際、急激な高度経済成長を遂げていた日本で、株価と地価も急激に上昇するなかでは、証券業と不動産業は、投機色の強いものとして大活況を呈していて、それを「怪しい商売」の大繁盛と表現しても、少しも違和感はない。

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実は、証券業の対象は投資と投機の両方であって、投機も重要な分野なのである。しかし、高度経済成長期の日本と違い、高度に成熟して老境に至った現在では、投機を罪悪視し、そこに反社会的要素を認めて、賭博と同等の好ましくないものとする意識が働くので、証券業の社会的機能として、産業金融の重要な一翼を担う面のみが強調される。

つまり、経済成長に不可欠の金融機能としては、個人貯蓄が預金形態で集積され、融資として産業界に流れる間接金融と並んで、産業界が株式や社債を資本市場で発行し、証券会社を介して、個人貯蓄によって吸収される直接金融も重要なのであって、証券業は決して「怪しい商売」ではない、これが証券業界の立場である。

しかし、資本市場の機能が健全に機能するためには、市場の流動性が必要であり、そのためには、投機資金を呼び込むことは不可欠なのであるから、その側面を否定的にとらえて隠蔽しようとすることこそ、不当であるといわざるを得ない。

麻生先生の発言は、過去の歴史的状況について、投機の重要性を指摘したものとして、稀少かつ貴重な意味がある。投機資金の呼び込みのためには、「よほどやばいやつ」が適役だろうし、「ほぼ詐欺」にみえる営業手法がとられたとしても、投機の勧誘において、投機に妙味を感じる顧客との間に適合性があれば、何ら問題はなかったはずである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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