首相公選制で政治の活性化はできないものか

総裁選を眺めるだけのもどかしさ

自民党総裁選は前年に比べ、様変わりしています。説明能力に欠けた菅首相を退陣に追い込んだのは世論の力でしたし、女性候補2人が加わったのも世論の反映でしょう。

4人の候補の平均年齢は約60歳で、国の政治的リーダーの世代交代は進みます。11月の総選挙を意識して、若手議員が派閥の統制に反対し、自主投票が主流になったことも世論、民意を反映しています。

本当は野党がしっかりし、政権交代を実現することが政治に緊張感をもたらし、ひいてはG7(主要7か国)で最低の成長しかできていない日本経済の活性化にも役立つ。

その野党は、枝野・立憲民主党代表が「議員の仕事は国会審議。総裁選は17時以降にやれ」と発言し、失笑を買いました。共産党の志位委員長の「政権交代は必要である」との発言もお粗末です。政権交代は政権を奪い取るものであり、「必要である」と叫んでいても政権は取れない。

野党は非力で、政権交代は当分、ありそうにない。そこで「自民党のなかから首相にふさわしい人物を選ぶしかない。その一票を有権者一人一人に与えてほしい。それには首相公選制の導入を」の声を聞きます。

菅政権の支持率は30%前後まで落ち込んだのに、退陣表明後、36%(読売の世論調査)まで持ち直しました。立憲民主党は7%、共産党3%、国民民主党にいたっては0%という惨状です。勝負になりません。

その自民党はどこまで世論を反映しているのか。世論、民意を反映していると言われる党員・党友票に比べ、議員票は相対的に多いという「ねじれ」があります。自民党が票を集めやすい小選挙区制のためでしょう。

読売新聞調査によると、国会議員票は「河野83、岸田94、高市71、野田16、未回答・未定118」です。「岸田氏がトップで、次いで河野氏」は予想通りにしても、右翼寄りの高市氏が意外なほど多数を占めています。

では世論に近いとされる党員票(総数383)はどうか。「河野177(41%)、岸田94(22%)、高市86(20%)、野田25(6%)、明らかにしない11%」です。高市氏を推す党員は河野氏の半分しかないのに、議員票では両者は競るという「ねじれ」です。

党員票と議員票の間に「ねじれ」により、両者を足すと河野氏はトップでも、恐らく過半数には届かない。決戦投票に持ち込まれると、議員票382に対し、党員票は当初の383が47(各都道府県に1づつ)に減らされる。これはおかしい。両者の比重を同じにしないと、党員になる気も失せる。

自民党総裁、つまり事実上の首相選出で、「世論」を「議員票」より軽く扱うのはやめるべきです。ですから「決戦投票なんかやめたらどうか。2、3位連合(岸田、高市連合)でトップが逆転し、その人が総裁になったら、世論を反映しなくなる」という批判が聞こえてきます。

自分たちで国会議員や知事は選べるのに、自分の国のトップは選べない。米国では大統領を直接選挙で選び、国民は政治参加でき、政治意識が高まる。トランプ氏のような危うい扇動政治家が大衆の人気で当選しても、一期でバイデン氏に敗北しました。

世論は風のようなもので、くるくる変わる。直接選挙は人気投票になりがちだし、ポピュリズム、衆愚政治に走りやすいという指摘が常にある。

かつての田中真紀子氏も、首相公選制だったら、首相に選ばれていたかもしれない。環境相の小泉進次郎もしばらく前まで「次の首相候補」の1位をずっと走ってました。見た目の人気先行で、実力もないのに、日本は混乱していたことでしょう。

議員が首相を選ぶ間接選挙でも、民主党の鳩山、菅首相という劣悪な人物が登場し、2大政党制への道を潰してしまいました。ですから間接選挙のほうが政治は安定するというわけでもありません。

さらに間接選挙のもとでも、ポピュリズムに走ります。今回の総裁選でも、逆転1位の可能性のある岸田氏は「数十兆円規模の経済対策をする。消費税は10年は上げない」との公約です。

河野氏は「保険料ではなく、税金を投入して基礎年金(1人1月7万円?)を保障する」といいつつ、財源を明示しない。民主党政権当時にもあった構想で、試算では消費税8%相当の財源が必要らしい。

現在の憲法では、「総理大臣は国会議員の中から国会の議決で選ぶ」(67条)となってますから、憲法改正なしに首相公選制は導入できまない。大統領制のように民間人でも立候補できるのかどうか、議員内閣制との関係をどうするかなど、山ほど課題があります。

経済社会の急激な変化に、現在の政治システムは対応しておらず、このままでは世襲議員ばかりの政界になってしまう。新しい政治人材が参入できる直接選挙は検討に値する。政界は改革が最も遅れている分野です。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年9月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。