日本での報道では伝わらないスペイン・カナリア諸島のエル・パルマ島の火山の悲惨な状況

スペイン・カナリア諸島のエル・パルマ島の火山噴火で22日までに200軒以上が溶岩の下敷きになった。

溶岩流の下敷きになっていく建物はこれから2倍から3倍に増える

9月19日、スペイン・カナリア諸島のラ・パルマ(La Palma)島(人口8万7000人)の南部に位置するクンブレ・ビエハ(Cumbre Vieja)火山が噴火。22日の時点では183軒の住宅が溶岩流の下敷きになったことが報じられ、23日には200軒を超えるまでに膨らんだと報じている。

イメージ(編集部)Vandeginste/iStock

同火山が位置する町エル・パソから溶岩の流れは海の方に向かっており、必然的に3-4つの町をこれから溶岩の流れが通過することになる。ラ・パルマ市の市議会議長マリアノ・エルナンデス氏はスペイン国営放送のインタビューに答えて、溶岩流の下敷きになる住宅はこれから2倍から3倍に増える可能性があることを指摘した。

溶岩流は3キロまで伸び、これまで103ヘクタールを溶岩で埋め尽くしている。当初、溶岩の流れは1時間当たり700メートルであったのが300メートルまでスピードを落とし、22日の報道では120メートルまで鈍足となっているという。(9月22日付「エル・パイス」から引用)。

 住宅の登記書は必ず持ち出すように促している

これまでおよそ6000人が着の身着のままで避難しているが、避難民の中には既に帰る家がなくなっている人もいるという悲惨な状態にある。また溶岩流が今後襲う可能性の高い町の住民はこれから溶岩が襲って来るのを恐れながらも治安警察から時間制限付きで、しかも市民保護局の職員の同行を義務付けて最低限必要な物だけを持ち出すことができる許可を与えている。その際に住宅の登記書は必ず持ち出すように促しているという。何しろ、住宅は跡形なく溶岩の下敷きとなる可能性が濃厚だからだ。

80歳を過ぎたラ・ラグナ町の住民マヌエラさんとフランシスコさん夫婦は同行した市民保護局員に「我々のすべての人生がここにある」と涙を流しながら語ったそうだ。何しろ、彼ら夫婦がそこから持ち出しできるのは必要不可欠なものだけに限定されている。その一方で、再び自宅で生活できる可能性はほぼゼロに近い。(同上紙「エル・パイス」から引用)。このような状況に置かれている家族が多数いる。

エル・パルマのGDPの50%が「プラタノ」の生産に依存している

7つの島から成るカナリア諸島の中でエル・パルマ島はテネリフェ島に次いで「プラタノ」の生産では2番目に多い島だ。ここで一つ説明が必要となる。日本ではバナナとプラタノの区別はないが、スペインではこの二つは完全に別個のものとなっている。見た目は全く同じであるが、一般にスペイン(カナリア諸島)で生産されたものをプラタノと呼び、中米や南米からのものはバナナと呼んでいる。更に、栄養価ということになると、バナナの方がカロリーが高く、カルシウムとマグネシウムが豊富。それに対してプラタノはカリウムとリンが豊富とされている。

カナリア諸島の多くの農家がプラタノの栽培に直接・間接的に携わっている。350軒の生産農家が加盟しているサン・フアン・ボルカン協同組合のラウラ・ブリト組合長は「我々は噴火の状況から目が離せない。私はこの日曜(19日の噴火した日)から一睡もしていない。この地域はワインとアボガドも生産してはいるが、プラタノの栽培が非常に盛んだ。多くの農家がプラタノの栽培に依存している。彼らのモラルは意気消沈している」と語った。

プラタノの栽培を伝統として家業として来たホセ・アンヘル・ゴメス氏は「溶岩が栽培している地域に到達するようになると、収穫はなくなるだけでなく、その土地はもう二度と栽培できないようになる」と述べた。そして噴火口が新たにできて、そこから溶岩が倉庫にまで侵入してくると出荷の用意をしていたものまで台無しになる」と語って、溶岩がどの方向に流れて行くか不明であるが故により不安感を高めている。

更に、同氏はプラタノは植林してから収穫を得るまで1年半かかるということから、プランテーションが被害を受けると2年間は収入がなくなることも指摘した。(9月22日付「ABC」から引用。)

プラタノの栽培がエルパルマにとって如何に重要であるかということを示すものとして同島のGDPの50%はプラタノの生産に依存しているということだ。この島のおよそ20%に当たる1万人がプラタノの栽培に関係している。

この噴火がいつまで継続するか今のところ不明だとしている。しかし、これまでのカナリア諸島の火山の噴火はひと月前後で収まっている。

それがいつまで続くか不明だとしても、今回の惨事はラ・パルマ島の経済を貧困にさせて行くのは必至である。

経済を担うプラタノの栽培に多大の被害を受け、コロナ禍でヨーロッパからの観光客のカナリア諸島への訪問も激減している。経済の回復を見込める材料は今のところ何もない。あとは、スペイン政府とEUからの支援金を期待せざるを得ないというのが状況だ。

日本での報道ではこのような悲惨な状況は伝わっていない。それを知らせるべく、敢えて今回記事にした。