総裁選中盤、私見

4氏が出そろった自民党総裁選。実質、次期首相の選挙なので党員のみならず、国民や野党もその行方と各候補の主張を注意深く検証していることでしょう。

総裁選に立候補した河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子の各候補 自民党HPより

17日の告示と29日の投票のちょうど半ばに差し掛かり、論戦もしばしば開催され、メディアも各候補の分析を行い、多くの国民が一定の興味を示していることでしょう。(若い人はそうではないかもしれませんが。)正直、政策の切り口が昔に比べて何倍にも増え、候補者の一長一短が出て選びにくくなってきました。

ここまで見た私の感想です。この4者の戦いの構図、やや後退したもののまだ、1対3の対決に見えます。つまり、河野氏対残り3人です(誰が有利という話ではなく、論戦の主導権です。)この対立構造は今の自民党と野党の関係と似ています。マスコミを含め、河野氏の意見が広く議論されればされるほど河野氏が有利になる仕組みです。

なぜでしょうか?我々が野党の批判をするとき「反対しか言わないじゃないか?ではどうすればいいか意見を出せ」と言います。河野氏は自らのユニークな切り口の論調を展開し、残り3人がそれに振り回されたのです。逆に言えば残り3人の主張に目新しさがなかったとも言えます。これは申し訳ないですが、3人の候補者の評価にはマイナスです。

河野氏は論戦巧者であり、本源的ゴールとそこに向かう実務的ステップを使い分けています。例えばエネルギー問題で原発は将来的にはなくす、だが、移行期間が必要なのだから今すぐに全廃させるというような極論は打ち出さない、としています。その上で例えば全く新しいタイプの処理のサイクルが完了できる小型原発が開発されたら「それは議論の次元が変わったのだから当然、検討に値する」と柔軟性を持たせるはずです。

年金問題に手を付けた際は他の三人がほぼ無防備でしたので上手いと思いました。彼はもともとSNSを使い、若い世代に「ファン層」を抱えます。その若手から「応援」を取り付けるに際し「俺たち、いくら年金払っても鼬ごっこだよな」と思い、その為に払わない人へのボイスだったとすれば切り口が明白でわかりやすいです。年金制度は自立している人のための仕組みであり、無年金の方々の対策が不十分だし、年金を払ってきた人と払わなかった人との「不平等感」にも踏み込めそうで評価できます。

私は高市氏は面白いと思っています。考え方もしっかりしているし、日本を守ろうという姿勢も立派です。ただ、唯一、実行力に疑問符がつくのです。思っているだけ、言っただけだと困ります。それを支える人がどれだけいるのか、これが最大の疑問であり弱点かもしれません。それと保守にもいろいろあるわけで「何も変えない人」と捉えられれば単なる頑固、偏屈になります。時代の早い流れの中で何処を守り、何処を変えたいのか、メリハリをつけないとイメージ戦略で失敗します。

今回の総裁選はすぐ後に控える衆議院選を占うことになります。河野氏は相当リベラル色が強いのですが、それゆえに仮に河野氏が指名されれば衆議院選は野党が差別化しにくくなり、自民安定勝利の計算が可能になります。高市氏では相当苦戦します。岸田氏も野党との論戦にどれだけ太刀打ちできるか、やや不安です。

岸田氏は「消費税は10年上げない」と断言しました。この切り口の攻め方は20年古い。なぜなら10年後の日本がどうなっているか、想像できないぐらい早く展開しているからです。根拠のない約束をする点で私は岸田氏は相変わらず「政治屋」だなと思います。

金融政策について岸田、高市氏はインフレ率2%目標と述べています。私はこれは日銀が主導することだと思います。政権運営は財政投融資と国家の経済戦略をどうするか、そちらが先であり、2%の話はあとからついてくるものでしょう。

野田氏は申し訳ないですが、自身の考え方や主張が「緩んだパンツ」のようなもので一生懸命、手で押さえている感じがします。他の3氏とあまりにも差がありすぎです。

4氏の中から選ぶ基準。私は実行力とそこに至る戦略的プランがどこまで実現可能なのか、そこを見ています。耳障りの良い話を聞くだけならよいのですが、日本国の社長選びです。社長は対外的な活動、つまり外交も重要です。その点、単に英語が出来るだけではなく、国際感覚に優れている点は将来各国首脳との交渉で圧倒的な差となるでしょう。

この選挙は小説を読んでいるのではないのです。明日の日本の話なのです。その切り口でもう一度4人の候補者の主張を聞いてみると違った色が見えてくると思います。但し、党員投票と議員投票ではまるで違う結果を生むこともあるでしょう。主張がどれだけ正しく、国民がこの人、と思っても結果は違う方向に行くことも大いにあり得る、これがこの数日にみられる展開です。29日までじっくり見ていきたいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月23日の記事より転載させていただきました。