韓国「中央日報」が26日に載せた「フルーツもコロナに感染?…『中国でニュージーランド産キウィが陽性反応』」と題する記事を興味深く読んだ。一種の「灯台下暗し」で、海外メディアで日本のことを知ることが少なくないし、むろん外々の事件を知ることも多い。本件も後者の一つだ。
韓国紙がこの話題を取り上げたのは、中国が絡むコロナ案件である上、ニュージーランド(以下、NZ)の話題だからだろう。なぜNZかといえば、在ニュージー韓国公館員が昨年、現地人(キウィと呼ばれる)の同性職員にセクハラを働いた事件が未だ決着していないからだ。
それは昨年7月、文大統領とアーダーン首相が電話会談した際、アーダーンが文に容疑者の引き渡しを求めたにも拘らず、不意を突かれた文が空返事をしたままになっている事件だ。筆者も昨年8月の拙稿に書いた。容疑者はその後フィリピンに赴任しているそうだ。
先ごろ中国が台湾の釈迦頭と蓮霧を、カイガラムシを理由に禁輸したが、NZも本年6月、台湾のマンゴーとライチからミバエが検出されたと禁輸したことが台湾で話題になった。NZの言い分は尊重したのに中国には抗議した台湾当局を、一部の者が二重基準だと批判したのだ。
少し横道に逸れるが、筆者はNZと台湾には共通点が多いと常々感じている。それ理由には、地震の多い島国であること、女性が為政者であること、新型コロナ蔓延を抑え込んでいること、そして中国向けの果物輸出国であること、などが挙げられる。
冒頭の話に戻れば、環球時報は24日、江蘇省南通市がウィチャットを通じ、地元スーパーに返品されたNZキウィからコロナウイルスの陽性反応が出たことを公表した、と報じた。地元衛生局はキウィがいつ誰に販売されたかや濃厚接触者を特定すると共に、店舗を消毒したそうだ。
このキウィに晒されたスタッフ14人のNDAサンプルと環境サンプルが採取、残りのキウィと共に検査した結果、すべて陰性だったとのことで、地区保健所は、12日から23日にスーパーに行った人やこのキウィに触れた人は直ちに保健所に報告し、必要な管理措置をとるよう呼びかけている。
少々バカバカしい話だし、国営紙とはいえ中国のことだから真偽のほどは判らない。が、報道したこと自体は事実だから、何らかの目的があってのことだろう。中国政府のコロナへの警戒心からかも知れぬし、市民をコロナ脳にするためかも知れぬ。
NZ側の受け止めは24日のNZ紙「Stuff」に詳しい。販売元のゼスプリ社はこれを受けて24日午後には「緊急管理計画」を立ち上げ、政府も中国当局との話し合いを支援していると発表した。キウィシーズン後半なので、輸出への影響は少ないらしい。
陽性反応の出たバッチは、NZで最後に陽性者が出た前日の8月16日に北島タウランガ港から出荷された。上海で中国の標準的な通関手続きに従って消毒して通関し、流通させたが、件のキウィは隣の合肥市の2次流通業者が扱ったものとのことだ。
NZのキウィ生産者協会最高責任者は、「中国はNZキウィにとって非常に重要な市場」とし、「ゼスプリがこの問題を非常に真剣に受け止め、プロセスを見直し、関係当局と連携していることを確信している」と述べた。
第一次産業省副長官は、「この問題を中国当局と協力していく」としつつ、「科学的な文献と世界の公衆衛生当局の経験から、空気中の飛沫やエアロゾルによる感染がCovid-19感染の主要な経路であることが判っている」と声明した。
マッセイ大学獣医学部の研究責任者フレンチ教授は、「コロナウイルスは食品を含む表面ではうまく生きられない」、「さもなければ、食品や表面に関連した感染者が多数発生するはずだ」とし、「世界中の多くの人がウイルスを排出しているのだから、偶にどこかの表面に付着していても不思議はない」としている。
業者らはお客様第一だから恐縮の体だが、役人や研究者は遠慮なく常識論を口にする。フレンチ教授の論には多くの者が首肯するだろう。が、それにしても北京は、なぜこの時期にこんな与太話を国営紙に報じさせるのだろうか、ともう一度考えてみた。
結果、北京が、ファイブアイズの一員であるNZを折に触れて牽制し、また台湾の民心を攪乱する道具に使っているのではなかろうかと思い付いた。ファイブアイズの一員とはいえ、中国に対する強硬さでNZが他の4ヵ国と一線を画しているのは周知のことだ。
またNZにとって中国は最大の貿易相手国であり、とりわけ食品生産者にとって乳製品、肉、魚介類、果物などの重要輸出市場だ。中でも世界の供給量の3分の1を占めるNZのキウィは、約20%に当たる約5億NZドル(3.6億USD)が中国向けとなっている。
そのキウィについて18年11月の環球時報は、「中国は世界最大のキウィ生産国であり、輸出国でもある」とし、「中国が原産のキウィは、1904年に太平洋を越えてニュージーランドに持ち込まれた」と書いている。確かに原産は中国かも知れぬが、イタリアやNZの生産量も相当なものだろう。
ただし、中国とNZがキウィの遺伝子解析による品種改良や「Psa」と呼ばれる病気について共同で研究していることは確かなようだ。が、そうであるなら余計に、今般のコロナウイルス付着の話はレベルが低いと思わないか。
台湾の民心撹乱では、拙稿に書いたように中国によるパインや蓮霧の輸入禁止に関し、台湾農家や蔡政権に対する批判もあり、世論が割れている。そこへNZキウィを中国が禁輸したとなれば、「中国は公正だ、台湾が悪い」との世論が惹起されそうなのは、先の二重基準論に見る通りだ。
北京の硬軟取り混ぜた情報戦や撹乱戦は多岐に及び、しかも極めてマメだ。尖閣への海警船や台湾防空識別圏への軍用機の精勤ぶり、南シナ海のフィリピンEEZへの大船団の居座り、台湾を支援する北欧東欧諸国への都度のイチャモンなど、挙げればきりがない。
とすれば、自国の農家に不満が出ない範囲での、台湾やNZへの嫌がらせなど朝飯前だろう。時あたかも、17日には中国が、22日には台湾がそれぞれCPTPPへの加盟を正式に申請した。とすれば今度の一件は、6月に英国のCPTPPへの加盟申請を歓迎したNZへのシグナルかも知れぬ。