自民党の総裁選挙の決戦投票の結果は、予想よりやや差が開いた観はあるが、直前の予想とはさほど大きな差はない。しかし、告示のときには、拮抗していると見る人が多かったし、さらに菅退陣表明の直後なら河野有利がはっきりしていた。
それが混迷の度を深めたのは、河野vs岸田でなく、高市が加わり、野田まで参戦したからだろう。
党員投票の結果に国会議員が拘束されるべきでないのは、『民進党は党員票1位の蓮舫を代表にして、沈没した。国会議員は党員投票と関係なく、選良として投票を。』という記事を別途書いているのでそちらのリンクを参照されたいが、それでも、一人の候補が過半数をとっていると、候補者の数が何人であれ、党員世論を覆した印象となるので、第一位の候補者がすんなり選ばれやすい。
その意味で、安倍晋三前首相が高市早苗への支持を決めて本格支援したことは、見事な判断だったし、混戦となることでキャスティングボードを狙った二階派が野田のために発起人を貸したのも同様だ。
それでも河野が優位に進んだのは、強いリーダーシップを感じさせるキャラクターとワクチン担当相としての実績、外相や防衛相としての露出度もあって、選挙の顔としても期待されところによるし、石破茂や小泉進次郎の支援も、当選確率が高い候補と思わせる効果はあった。
ただ、告示後に四人の候補者による討論が始まると、河野は孤立することが多く、しかも、小泉純一郎のように、歯切れ良く残りの三人を切り倒す観はなかった。それが、徐々に支持を減らした原因であろう。
一方、討論の場では好感度が高かった高市にとっては、徐々に支持が拡大したものの、告示直後に多くの党員が投票用紙を投函したことが支持拡大のネックになった。もし、開票日当日に投票だったら、河野が40パーセント前後で高市が25%あたりまで上がっていたのではないか。
議員票については、河野が直前の予想より40票ほど少なく、岸田と野田が10票、高市が20票程度上乗せした観がある。そのうち、高市の場合には、もし、高市が二位になったら、河野にかえって有利という観測も流され、安倍周辺からのてこ入れが心持ちラストスパートがかからなかったように見える。
しかし、それにもかかわらず、この好成績になったのは、やはり、二階周辺が岸田を阻止したいためなのかどうかは分からないが、河野に流れることが予想されていた票を10票以上の単位で高市にまわしたようにも見える。
その証拠に、決選投票では高市支持票のうち少なくとも10票以上が河野に流れたと考えないと辻褄が合わないのである。
また、河野への票が岸田や野田にも流出したのには、日本端子問題などのスキャンダル追及もそれなりに効果があったこと示していそうだ。
しかし、いずれにせよ、どういう意図かはともかく、岸田が第一回投票で、一票だけでも河野を上回ったことは、岸田体制の正統性を著しく高めた。また、議員票で高市に河野が負けたことは、河野のみならず、石破、小泉を加えた小石河トリオに人望がないかの証となった。
さらに、この結果が、菅義偉と二階敏博の安倍晋三に対する敗北、というよりは、対抗することが分不相応だった証になったようだ。
ということで、この選挙を『安倍晋三の二階・菅・小泉・石破に対する最終勝利』と名付けたが、さらにいえば、河野洋平と息子が清和会のなかで跳ね上がった真似をして恥をかいた福田康夫に対する勝利ともいえよう。