トリキバーガーは鶏肉ブームに乗れるのか

関谷 信之

鶏肉バーガーの専門店「トリキバーガー」。東京品川の大井町駅前にオープンしてから、1ヶ月が過ぎました。

オープン初日は、行列ができるほどの混雑。しかし、筆者が訪店した9月末休日のランチタイムは、レジ待ちの客は5組ほど。イートインも、やや空席が目立ちました。よく言えば、落ち着いてきた。悪く言えば、陰りが見えてきた、という状態です。

一方、サラダチキンの人気定着や、唐揚げ専門店の急増など、鶏肉ブームは堅調に続いています。

はたして、トリキバーガーは鶏肉ブームに乗ることができるのか。考察したいと思います。

筆者撮影

トリキバーガーとは

トリキバーガーは、居酒屋チェーン大手:鳥貴族の新事業です。鶏肉をバンズで挟んだ、鶏肉バーガーを主力商品とします。特徴は「国産」素材を使っていることです。鳥貴族は「鳥貴族のDNAを有する新たな業態」としています。

鳥貴族本体の経営状況は芳しくありません。赤字が続き、前期(2021年7月期)は営業損益段階で赤字となりました。現状を打破するため新事業が必須だった、という背景があります。

トリキバーガーの味

では、新事業の商品はどのようなものなのか。実食レビューを含め、顧客視点で見ていきます。

最初に、味について。

悪くありません。

商品特徴で競合する「ケンタッキーのチキンフィレサンドサンド」と比べると、

揚げ方:トリキバーガーの方がカラッとしている
肉質:ケンタッキーの方が柔らかい

あくまで筆者の主観ですが、総合するとトリキバーガーの方が美味しいと感じました。このあたりは、揚げ方・肉質のどちらを重視するのか、好みによると思います。

ただし、トリキバーガーのバーガーとしての完成度は、あまり高くありません。

「食べにくい」のです。

ラッピングを開けたとき、揚げ物・レタス・バンズがばらばらになり、自分で挟みなおさなければなりませんでした。ケンタッキーのチキンフィレサンドや、マクドナルドのチキンサンドでは、あまり起こらないことです。課題は、調理マニュアルやスタッフ教育などを改善し、「食べやすく」することでしょう。

筆者撮影

トリキバーガーの価格

次に、価格について。

安くはありません。

「鳥貴族のDNAを有する」とのことでした。が、鳥貴族に期待する「安さ」はありません。トリキバーガーは単品390円。ケンタッキーのチキンフィレサンドと同額。セット価格(590円)も、ケンタッキーのランチセット(600円)と、ほぼ同額。ハンバーガーチェーンの平均的価格です。

ただし、全品同一価格は、分かりやすいというメリットがあります。迷うことなく、純粋に「食べたいもの」を選べます。レジ待ちや会計が、短く済むでしょう。

味と価格を総合すると、「普通」のバーガーチェーン。顧客視点では、こういった評価になるのではないでしょうか。

「普通に美味しい」トリキバーガー。はたして、鶏肉ブームに乗れるでしょうか。

鶏肉ブームの背景

なぜ、鶏肉ブームが定着しているのか。理由の一つとして、「ヘルシーだから」ということが挙げられます。

鶏肉は高タンパク質・低カロリー。だから、筋トレやダイエットに最適。鶏肉ブームの背景には、そんなヘルシー志向の高まりがあります。

そこで、本稿ではヘルシーとは

「タンパク質が多く、カロリーが低いこと」

と定義し(※)、トリキバーガーを他店のバーガーと比べてみることにします。

尺度として、(今回勘案した)タンパク質含有率を用います。

タンパク質含有率(%)=タンパク質(カロリー)/全体カロリー
(タンパク質は、1グラム4キロカロリーと換算します)

食品の総カロリー中タンパク質がどれくらいを占めるか、を示す尺度です。高ければ高いほど「ヘルシー」ということになります。

はたしてトリキバーガーはヘルシーでしょうか?

【他店の、揚げた鶏肉バーガーとの比較】
トリキバーガー:16.7%(=タンパク質20.6グラム×4キロカロリー)/493キロカロリー)

ケンタッキー
チキンフィレサンド:18.8%(=19.5グラム×4キロカロリー/415キロカロリー)

モスチキンバーガー:15.7%(=15グラム×4キロカロリー/383キロカロリー)

トリキバーガーは、2番手。ケンタッキーよりやや低め。特にヘルシーとは言えません。

参考に、他の商品も見てみます。

【具:牛肉】
モスバーガー:17.1%(=15.7グラム×4キロカロリー/367キロカロリー)

【具:蒸し鶏】
トリキバーガー
サラダチキン(バーガー):14.7%(=10.9グラム×4キロカロリー/296キロカロリー)

牛肉を使ったモスバーガーよりも値が低い。(一見ヘルシーに見える)蒸し鶏を使ったサラダチキンバーガーの値が低い。

このことから言えるのは、

「鶏肉はヘルシーだが、鶏肉バーガーはヘルシーとは言えない」

ということです。

鶏肉は味が淡泊です。だから、揚げたり、マヨネーズやバジルオイルなどで味付けしたりします。すると、脂肪分が増えカロリーが高くなる。結果、タンパク質含有率は、他の肉を使ったバーガー類とあまり変わらなくなってしまうのです

トリキバーガーは、特段ヘルシーというわけではない。よって、鶏肉ブームにのることは難しい、と言えます。

ヘルシー志向とは異なるターゲット層への訴求が必要です。

安全志向をターゲット層とするには

トリキバーガーは、9月21日の決算説明会で

「おいしさ、そして安心・安全のため、トリキバーガーは国産食材100%」

と述べました。同社ウェブサイトでも、同様の文言が確認できます。

「安全」を強みにするのであれば、鶏肉ブームとは異なる層、具体的には、安全志向のファミリーなどがターゲットになります。そういった層に訴求するには「国産」だけでは不十分です。「国産」だと、なぜ「安全」なのか。産地(県)や鶏肉の製法など、より説得力のある根拠を示す必要があります。

また、鶏肉ブームに乗るのであれば、高タンパク質・低カロリーの「ヘルシー」な商品を開発する必要があるでしょう。

これらの課題は、フランチャイズ化においても同様です。他チェーン店と差別化できる強みが明確で、収益が見込めない限り、フランチャイズは広がりません。

鳥貴族は、

「今後3年で直営店10~20店舗。3年以降は、フランチャイズを加え展開を加速する」

とも述べています。

3年間でどれだけ課題を解決できるでしょうか。

「普通」に仕上げるのは難しい

商品の味は「普通」と述べました。

商品以外の要素、待ち時間や店内の清潔感なども、他ハンバーガーチェーンと比べ遜色ありません。

鳥貴族にとって、トリキバーガーは多角化事業です。開業1店舗目から、「普通」に仕上げるのは並大抵ではありません。

潜在能力が高いトリキバーガーの今後に期待したいと思います。

【参考・補足】
鳥貴族 2021年7月期決算説明会資料(20210921)
・各社栄養成分表
トリキバーガー
モスバーガー
ケンタッキー
※ヘルシーの定義
本稿のみの定義であり、実際に「ヘルシー」ということではありません。